過去の展覧会ダイジェスト版になります。
2024年10月5日から2025年2月11日まで開催されていました。パリのマルモッタン・モネ美術館より50点が来日し、国内に点在する作品も集結しました。
第3章展示作品(9点)のみ撮影可でした。印象に残った展示作品をご紹介しましょう。尚、紺色の文字は、会場内の解説から(一部)引用しました。
第1章 セーヌ川から睡蓮の池へ
《舟遊び》(1887年/国立西洋美術館所蔵)
セーヌ川支流エプト川で舟遊びをする二人の少女が描かれています。モネが再婚する相手の連れ子(主旨)とのこと。こちらに顔を向けている左側の少女は、目・鼻・口が描かれていません。《日傘をさす女》もそうでしたね。描かないことに特別の意味が込められているのか、鑑賞者の想像に委ねているのか…。
《ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出》(1897年/マルモッタン・モネ美術館所蔵)
画面下半分に水量豊かな川面が描かれ、岸辺に生い茂る樹木の緑を映しています。夜が明けて空が白んできた時間帯。霞がかった遠景は樹木とも雲とも。1896〜1898年、セーヌ河の眺めを主題とした連作20点を手掛けた。毎朝3時半に起床し、光・大気の変化をとらえるため、14点のカンヴァスを並行して描いた。(主旨)とのこと。
《ウォータールー橋、ロンドン》(1902年/国立西洋美術館所蔵)
画面全体が薄紫色に染まる幻想的な作品。近くで拝見すると、黄緑色・茶色・青色等、多くの色を使用していることが判りました。アーチ状の橋桁に施された陰影が、橋の頑丈な質感・立体感を表現しています。テムズ川を下る帆掛船が5、6艘描かれ、川の水流・水量を推し量ることができました。
《テムズ河のチャーリング・クロス橋》(1903年/吉野石膏コレクション、山形美術館に寄託)
第1章で最も魅了された作品。一見すると夕景。空には様々な色が塗り重ねられ、画家の技量が遺憾なく発揮されていました。日没まで間があるのに、川は太陽光を反射してオレンジ色に輝いています。橋の上方に、斜めに立ち昇る汽車の煙が描かれています。白色混じりの紫の煙が画面のアクセントとなっています。装飾的な金色の額縁が絵を引き立てていました。
第2章 水と花々の装飾
《藤》 (1919−1920年頃/マルモッタン・モネ美術館所蔵)
睡蓮の装飾画の上部に藤の花をモティーフとするフリーズ(帯状装飾)を設置することを計画していた。
同一の主題で描かれた大作2点が並んで展示されていました。多彩な色遣い・大胆な筆遣いに魅了され、行きつ戻りつ鑑賞しました。煙るような大気が薄紫色で表現され、藤棚は、緑色・青色・白色を駆使して色彩豊か。
音声ガイドによると、妻・息子と死別したモネは、1918年11月、第一次世界大戦休戦の翌日、友人クレマンソー首相に「勝利の日に署名する」という内容の手紙を送り、この装飾画を国家に寄贈する仲介を依頼していた。(主旨)とのこと。本作は“習作”だったそうです。東山魁夷画伯の描いた下絵の高い完成度に以前驚いたことがあり、同じ思いを抱きました。
![]() | 価格:25000円 |

第3章 大装飾画への道
《睡蓮、柳の反映》(1916年?/国立西洋美術館所蔵)

松方幸次郎は、1921年にジヴェルニーのモネの家を訪れ、18点ほどの作品を画家から直接購入しました。本作もその一つで、大装飾画の関連作品を外に出すことを嫌ったモネが、生涯で唯一、売却を認めた装飾パネルです。(中略) 第2次世界大戦を経て、長らく所在不明となっていましたが、2016年にルーヴル美術館において、画面の大部分が破損した状態で再発見されました。
キャプションを読んだ限り、第2次世界大戦時に破損したと解釈するのが自然。来館者の多くがキャプションを熱心に読んでいました。
《睡蓮》(1916年/国立西洋美術館所蔵)

垂直方向に強調された濃い青の硬質な筆致が、水中の神秘的な深みをも暗示しています。(中略) 睡蓮の花が色鮮やかに咲き誇る水面と、そこに映り込む周囲の木々や空の反映、そして水草が揺らめく水底という、重層的な絵画空間が生み出されています。

離れて拝見した時、縦に描き込まれた線は水草を表現しているのかな…と解釈しました。近くで拝見すると、驚くほどあからさまに加筆されていることが判ります。椿のように赤い睡蓮の花は珍しい。同じ赤色で、睡蓮の葉を縁取ったり影をつけたりしている色遣いも独特でした。
《睡蓮》(1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館所蔵)

水面に映し出される雲の反映像は、モネの風景画において初期から頻繁に描かれてきましたが、《睡蓮》に限っていえば、1909年以前の作例にはほとんど登場しません。しかし、1914年以降の大装飾画の制作において、このモティーフは、池の周囲に植えられた枝垂れ柳とその反映像とともに、きわめて重要な位置を占めるようになります。

本展を象徴する作品とあって、奥の正面に展示されていました。枝垂れ柳と睡蓮の競演。柳の濃い緑色と睡蓮の明るい緑色の対比が味わい深い。ピンク色の睡蓮の花が華やかさを添えています。水面に映り込む青空・白い雲を描くことで、戸外の大空間をも表現した一枚。
第4章 交響する色彩
第4章の展示作品は、20点全てがマルモッタン・モネ美術館から来日。
《日本の橋》連作8点が展示されています。モティーフとして、中央下部に太鼓橋が描かれていることが辛うじて視認できます。周囲の自然と渾然一体。白内障を患い、視力を殆ど失っても尚、創作意欲は旺盛。エネルギーほとばしる作品群でした。
《ばらの小道》連作3点が展示されていました。モネの家から睡蓮の池へ向かう途中「ばらのアーチ」が築かれていたことは、画像等で存じておりましたが、モティーフとなった作品は初見でした。《ばらの庭から見た(画家の)家》連作4点も並んで展示されていました。
エピローグ さかさまの世界
《枝垂れ柳と睡蓮の池》(1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館所蔵)
《睡蓮》(1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館所蔵)
この2点はいずれも、オランジュリーの大装飾画のうち《柳のある朝》の左パネルに関連する習作で、《枝垂れ柳》が描かれた場所から画面奥の岸辺まで近づき、水面へと視線を移したものが《睡蓮》です。
同サイズの大作。やや縦長の構図。《枝垂れ柳と睡蓮の池》画面のほぼ中央にどっしりとした柳の幹。茶色・ピンク色・緑色等が波状に塗り重ねられ、重厚感を醸し出していました。垂れ下がる葉にボリュームがありました。《睡蓮》は近景に岸辺、垂れ下がる柳の葉。紫色で描かれた池の描写に惹かれました。『ぶらぶら美術・博物館』(2024年12月20日放送)の解説によると、半ば分断されたように描かれた下部の柳は「水面への反映」。
以上、印象に残った展示作品をご紹介しました。