入館料は一般1,400円。“夏の学割”が設けられています。大学生・高校生は500円。
山種美術館で所蔵する東山画伯の作品全てが展示されるとあって、はやる気持ちを抑えて訪問しました。没後25年。もうそんなに経つのですね。日本画に魅了されたきっかけが東山作品だっただけに感慨深いです。
館内の撮影は原則不可。《緑潤う》のみ撮影可でした。画像はありませんが、注目してご覧いただきたい作品をご紹介します。
東山魁夷と日本の四季
東山魁夷《月出づ》1965年
第1展示室に足を踏み入れると真っ先に視界に入ってきます。キャプションを読む前に作品を鑑賞。構図に着目したい。画面右上から左下へ向かってこんもりとした針葉樹の山が描かれ、その山を半分隠すように、画面左上から右下へ対角線上に山肌が描かれ、画面半分に広葉樹の山が拡がっています。山肌を半ば露出させて直線を強調することで、奥の曲線との対比が際立っています。山の彼方に上ってきた月の大きさ・位置も絶妙だと思います。
東山魁夷《春静》1968年
右手壁面に展示されています。針葉樹の山と満開の桜の色の対比が美しい作品。やはり構図の巧さに舌を巻きます。過去、何度か拝見していますが、初見時はこの構図に衝撃を受けました。桜の樹形は曲線。山の斜面は直線。《月出づ》と通じるものがあります。空を三角形に切り取ることで、鑑賞者に無限の空間をイメージさせる効果があるように感じます。
東山魁夷《緑潤う》1976年
《春静》の隣に展示されています。この作品を拝見するのは2度目。初見時は、色彩の美しさに目を奪われ、暫く佇んでいました。緑鮮やかな樹木のみならず、水面に映る木々の影や太陽光の反射もつぶさに鑑賞したい作品です。渋い金色の額縁が絵画を一層引き立てていると思います。
東山魁夷《年暮る》1968年
右手壁面に展示されています。年の暮れ、雪が降りしきる夜の京都を描いた作品。この作品も何度か拝見しています。初見時は、屋根の連なりを作品に仕立てた着想に驚きました。画面の殆どが青と白。限定的な色で表現された幻想的な世界。2、3の町屋の窓から灯りが漏れ、そこに暮らす人々の営みがかすかに感じられます。東山作品には、厳然とした風景・光景の中に一点の温もりを見出す作風が見受けられますよね。東山画伯が還暦を迎えた年末、半生を振り返るために静謐を求めて描いたのか。文豪・川端康成から勧められた『京洛四季』シリーズの一環として、いつしか姿を消すであろう町屋を意図的に描いたのか。想像は尽きません。
結城素明《夏渓欲雨》1940年頃
ガラス越しに拝見しました。岩山が重層的に描かれた、縦長を最大限に活かした構図。近景も中景も遠景も等しく眼下に収まり、蓑を着た釣り人の姿が米粒ほどの大きさで描かれています。この掛け軸は実に味わい深い。結城画伯の作品はたまに拝見しますが、東山画伯の東京美術学校時代の師だったのですね。東山画伯が後年、師のエピソードを語られたキャプションを拝読。結城画伯の真摯な姿勢が窺えると同時に、良き師弟関係を築いていらしたことも伝わってきました。
東山魁夷《満ち来る潮》1970年
第1展示室の奥に展示されている本展最大の見どころです。私は初見でした。岩に打ちつける白波がプラチナ箔・砂子で豪快に表現され、波間にも金箔・細金・砂子がふんだんに用いられています。岩に塗られているのは金泥でしょうか。荒々しい海原の風景でありながら、絢爛豪華な作品に仕上がっています。
価格:7480円 |
日本の夏
川端龍子《鳴門》1929年
六曲一双屏風。青い海原に白波が立つ装飾的な作品。一時、猛暑を忘れるような清々しさに心が洗われます。
石田武《四季奥入瀬 瑠璃》1985年
大作です。その大きさ以上の迫力が伝わってきます。遠景に樹林、中景に奥入瀬渓流、近景に大樹(ブナでしょうか。キャプションに記載されていたかもしれませんが失念しました)が描かれています。樹林・渓流は共に群青色で表現され、背景と化しています。大樹の枝は屈折し、真っ直ぐ伸び…。その複雑な形状は、長い年月を風雪に耐えてきた証でしょうか。
※1 上村松園《盆踊り》1934年頃
端正な美人画で知られる松園画伯の作風とは大きく異なる素朴な小品です。時間をかけずに仕上げたであろう軽妙なタッチが魅力的です。ガラスケースに齧りつくように見入ってしまいました。この作品の展示は8月18日まで。
※1 追記:展示期間は終了しました。
※2 葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》1830年頃
冨嶽三十六景の中では、新紙幣(千円札)に採用された『神奈川沖浪裏』も人気ですよね。私は最も好きな『凱風快晴』を鑑賞することができて満足です。この作品の展示も8月18日まで。
※2 追記:展示期間は終了しました。
以上、印象に残った作品をご紹介しました。実は、第2展示室を忘れる痛恨のミスを犯してしまいました。必然的に、第2展示室の展示作品についての感想は割愛しております。
特別展《東山魁夷と日本の夏》会期は9月23日まで。