６月18日より【展示室５】【展示室６】において、表題の企画展が始まりました。次のテーマに沿って展示されています。数多の展示作品の中から、印象に残った作品を幾つかご紹介したいと思います。
規範からの解放
明るい色調が魅力的な作品。点描画ながら点々ではなく、横長の線が塗り重ねられています。タイトルから推測すると、マルセイユに入港した船からオレンジを降ろしている光景でしょうか。目を凝らすと、数名の作業員がオレンジ色の物を頭上に乗せ、船から陸へ運んでいます。当時の輸送形態を知る上でも興味深い場面です。色彩豊かな点描で描かれているためか、写実的でありながら現実感は削がれ、幻想的な印象の作品に仕上がっています。
色とりどりの花が丹念に描かれた華やかな作品。テーブルに置かれた花瓶の周囲にも沢山の花がやや無造作に置かれています。どんなシチュエーションなのか、想像が膨らみました。お祝いに沢山の花束を戴いたものの、花瓶が一つしかなく、入り切らなかったとか…。現実的に解釈すると、花瓶に生けた花にボリュームがあって上部が重くなり、バランスを取るため、下部にも花束を描き足したとか…。背景も興味深いですね。モチーフを引き立てるため背景を暗くするのがセオリーかと思いますが、派手なオレンジ色が採用されています。ウェーブ状の布を模したような光沢のある背景は何を意味するのか、摩訶不思議な作品です。
西洋の外側へ
パブロ・ピカソの作品が２点ありました。当然と言えば当然ですが、撮影不可でした。他の画家の作品については記憶が曖昧なので割愛します。
パリと日本人たち
藤田嗣治《聖誕》・《二人の子供と鳥籠》も撮影不可でした。視界に入った瞬間、目が釘付けになりました。一瞬モノ・トーンに見えたのは、無機質な印象の作風に引っ張られたからかもしれません。《二人の子供と鳥籠》のタイトルに『二人の子供』とありますが、画家に子供はいなかったようなので、他人の子供をモデルにしたのでしょうか。(または架空の人物かもしれませんね。)被写体の二人が私には母娘(もしくは姉妹)に見えました。若い母親(もしくは年齢の離れた姉)に寄り添い手を重ねる娘(もしくは妹)、と解釈すると、外界から閉ざされた環境に身を置く母娘(もしくは姉妹)の閉塞感が伝わってきます。鳥籠との位置関係も謎です。鳥籠は後方に置かれているようでもあり、前方に吊るされているようでもあり。(籠の脚部が見えるので前方上かもしれません。小鳥の影が壁に映っているので後方かもしれません。う〜ん、迷いますね。)無表情の二人と小鳥との間に交流は感じられません。両者とも他者の存在には全く関心がない様子で、非常に虚無的です。
エコール・ド・パリ
《若い女の胸像(マーサ嬢)》1916〜17年頃
モディリアーニの作品が撮影可でした。見た瞬間、モディリアーニ作品と判断できるほど、“顎が尖り、鼻筋と首が長く、瞳が描かれない”特徴が際立っています。仮に、有名画家の作品と知らなくても惹きつけられる“何か”がありますよね。“何か”って何？と聞かれても答えられませんが…。
遠近法を抜きにしては語れない構図です。画面左側の建物上部と通りとの消失点が一致しないようです。近景の建物は遠近法に則って描かれているのに、中景の建物はそうではありません。よくよく見ると、キュスティーヌ通りの道幅を等しく描いたために、通り自体、遠近法を無視する形になってしまったように見受けられます。と言いつつも見入ってしまう不思議な魅力があるんですよね。
女性作家の登場
《帽子をかぶった少女》1924年頃
モディリアーニ同様、一目でマリー・ローランサンと判る作品。少女が身に着けるにしては地味な色です。肌の露出が大きい分、洋服の色味を抑えたのでしょうか。唇に乗せたピンク色が彼女の若々しさを象徴しています。髪と帽子の境界が曖昧ですが、そこも画家の特徴の一つですよね。画面左上に配された緑色が絶妙です。
二つの作品が並んでいなければ、マリー・ローランサンとは気が付かなかったかもしれません。まとっていたストールを外すと、宝石を首に掛け、胸が大胆に開いたブルーのドレスが露わになる…だなんて、同性でもドキドキする場面ではありませんか。背景の白色も、ブルーのドレスを引き立てていると思います。
パリから離れて
残念ながら展示作品の記憶が曖昧なので割愛します。
企画展《レガシー―美を受け継ぐ》の会期は10月13日まで。
《唐三彩―古代中国のフィギュア》も同時開催中。会期は同じく10月13日まで。
 | 価格:7480円 |
