会期は11月23日から2025年1月5日まで。会期中無休。事前予約は不要です。入館料は一般1,400円。文末に貼った『そごう美術館公式サイト』のリンクをクリック。下へスクロールすると「優待割引券」の項目があります。この「優待割引券」を窓口に提示することで200円引になります。
“チェコ在住の個人コレクターであるズデニェク・チマル博士のコレクション(※)から、初来日作品約90点をふくむ約170点の選りすぐりの作品をお楽しみください。”(チラシより一部引用)
※ “チマル・コレクションは、きわめて包括的にアルフォンス・ミュシャの作品を多数収蔵している世界有数のコレクションのひとつである。”(パネル解説より一部引用)
本展は以下のテ―マに沿って展示されています。印象に残った作品をご紹介しましょう。
Ⅰ 挿絵画家としての出発
“多様な分野で活躍したミュシャが広く知られるきっかけになったのは、雑誌や書籍の仕事であった。(中略)第1章では、無名の画家であった頃から、徐々に自身を確立した時期のこれらの作品を紹介する。”(パネル解説より一部引用)
雑誌『フィガロ・イリュストレ、1896年6月第75号』(レ・カフェ・コンセール特集)表紙「イヴニング・コンサート」1896年
「カフェ・コンセール」をネット検索。“19世紀後半から20世紀のはじめのフランスの、ショーを見せる飲食店の形態”を指すそうです。こちらの会場は屋外ですね。両腕を前に差し出した女性は歌手でしょうか。一体化した髪・羽飾りがゴージャス。小テーブル脚の曲線と彼女のくびれたウエストが似ています。椅子に掛けられた赤い布はガウンでしょうか?金色で表現された文字 FIGARO が際立ちます。中景には、正装したご婦人方がテーブルを囲む姿が描かれています。
雑誌『ココリコ、創刊号』表紙と本扉 1898年
女性のハット「COCORICO」の「RICO」は半ば隠して類推させる手法を採っています。「C」が「O」を内包する本扉の文字装飾が洒落ています。
メニュー表「サラ・ベルナール50歳の誕生日会」1896年
“サラの名を冠したケーキを含め、多数のきわめて豪華なごちそうがメニューとして記載されている。”(キャプションより一部引用)
サラ・ベルナールと思しき女性が、左右にかしずく女性からもてなされる場面が描かれています。50歳の大女優ともなると貫禄が違いますね。挿絵が主でメニューは従。サラ・ベルナール✕ミュシャの最強タッグを窺うことのできる作品です。
カレンダー「詩」1899年
“日付を刷り込むための余白が残されている。”(キャプションより一部引用)
こちらも挿絵が主で、カレンダー(日付)は従。こんな素敵なカレンダーだったら、絵画と同感覚で室内に飾ることができたでしょうね。
書籍「装飾アルバム」より「花言葉」(pl.35)、「ビザンティン」(pl.46) 1900年
“「装飾アルバム」は、複数の画家による多数の装飾パネルと装飾デザインが所収された3冊セットの図案集である。”(キャプションより一部引用)
繊細なタッチで濃密に描かれています。まさに美の集積…。
Ⅱ 成功の頂点―ポスターと装飾パネル
“アール・ヌーヴォーが花開いたのは、産業や技術の発達に伴い生活水準も向上した時代であり、ポスターはそれを象徴するものであった。”(パネル解説より一部引用)
⇩こちらの壁面に展示されているリトグラフが本展の花形と申し上げてよいかと思います。濃紺の壁面が作品を引き立てています。左から順に《ジスモンダ》・《椿姫》・《ロレンザッチオ》・《サマリアの女》。
ポスター「ジスモンダ」1894年
“このポスターは、フランスの大女優サラ・ベルナール(1844−1923)のために、ミュシャが手掛けた最初のポスターである。”(キャプションより一部引用)
この豪華な壁面で、真っ先に目を奪われる作品。肖像画よろしく、サラ・ベルナールその人の面差しであろうことを想像します。こんな素敵なポスターが初手から完成したら、タッグを組みたいと思いますよね。
衣装の裾に隠れるようにしている人物の表情が不気味です。大衆の興味を引くため、故意に不穏な雰囲気に仕立てたのでしょうか。
⇩「ジスモンダ」についての優れた解説を見つけたので、リンクを貼っておきます。
ポスター「椿姫」1896年
星を散りばめたピンク色の背景がロマンチック。緩く結った髪に白い椿を飾り、瞼を半ば閉じて夢想する椿姫に惹かれます。
ポスター下部には、白い椿の枝を持つ無骨な手が描かれています。『椿姫』の符牒にしては、この手は主張し過ぎかも。彼女の足元にかしずいたパトロンが椿の花を捧げる場面でも添えたのでしょうか。仮にそのように解釈すると、一顧だにしない椿姫の気高い一面が垣間見えますね。
ポスター「ロレンザッチオ」1896年
男装の麗人。纏う雰囲気も全く異なるため、会場で拝見した時点では、よもや女優サラ・ベルナールの演目とは思いませんでした。
ポスター下部にも是非ご注目ください。おどろおどろしい場面が描かれています。
⇩「ジスモンダ」についての解説と同サイトに「ロレンザッチオ」の解説もあったので、リンクを貼っておきます。
ポスター「サマリアの女」1897年
ポスター下部には、目を閉じて膝を抱え込んだ老人の姿が描かれています。何と奇怪な…。自在な着想に驚かされます。
⇩「ジスモンダ」「ロレンザッチオ」についての解説と同サイトに「サマリアの女」の解説もあったので、リンクを貼っておきます。
右:カレンダー「ビザンティン風の頭部:ブロンド」1900年
左:カレンダー「ビザンティン風の頭部:ブルネット」1909年
美女の横顔が描かれています。豊かな髪を円い枠からはみ出させて描くことで、立体的に見えますね。2人が向かい合うように配置するのがお約束でしょうか。(もっとも、背を向けて展示するのも変ですね。)目を閉じる美女は、美貌は揺るがない、と言わんばかりの自信の表情に見えます。
ポスター「黄道十二宮」1896年
併設ミュージアム・ショップで、㈱東京美術―もっと知りたいシリーズ―『ミュシャ 生涯と作品 改訂版』(千足伸行著)を購入しました。この「黄道十二宮」(部分)がカバーに採用されています。展覧会の余韻に浸りつつ読み進めていますが、カラー刷りの作品が多数掲載され、非常に充実した内容です。巻末に紹介されている千足伸行氏の他のご著書も読みたくなりました。
ポスター「《スラヴ叙事詩》展」1928年
一際目立つポスターです。
価格:2888円~ |
Ⅲ 生活のなかのデザイン
“アール・ヌーヴォーが興ったのは、消費文明が始まった時代でもあった。ミュシャは、自身の作品を広告に使用した、おそらく最初の芸術家である。”(パネル解説より一部引用)
ビスケット缶のパッケージ(2種)
“さまざまな商品に彼の図案が用いられた。これには、新たにデザインされたもののほかに、既存の図案が転用されることも多かった。”(パネル解説より一部引用
装飾皿「ビザンティン風の頭部:ブルネット」1898年
Ⅱに展示されているデザイン⇩と比較してみましょう。顔の向きが異なるだけで、髪型・装飾品・衣装・円内の背景は同一。装飾皿のデザインが、カレンダーのデザインに転用されたのですね。
雑誌社パリ=フランスのための有価証券 1898年(1906年発行)
Ⅳ プライヴェートな生活の記録
“クラスメイトや教師の顔といった素描の数々が描かれている学生時代のノートからは、彼が授業よりもデッサンを楽しんでいたことが伝わってくる。”(パネル解説より一部引用)
素描集「学生時代のノート」と内部の複製 1876−1877年
写真「《スラヴ叙事詩》の最後に完成された作品および「《スラヴ叙事詩》展」のポスターのためのモデルとなるヤロスラヴァ(ズビロフ)」1926年
Ⅱに展示されているポスター⇩と比較すると…
Ⅴ 唯一無二のオリジナル作品
“現在は高い評価を得ているミュシャ直筆の作品を今日入手することはきわめて困難であるが、チマル・コレクションには稀少なオリジナル作品が多数所蔵されている。”(パネル解説より一部引用)
油彩画「カタリナ・バウアーの肖像」1882年
油彩画「ヨハン・バウアーの肖像」1882年
“一対のバウアー夫妻の肖像画は、おそらく注文制作である。(中略)ミュシャは、装飾工房の絵描きとして雇われるかたわら、地元の人々の肖像画を描くことで副収入を得ていた。”(キャプションより一部引用)
m(_ _;)m 来館者・別の作品の映り込みが激しい画像となってしまいました。「ヨハン・バウアーの肖像」画像も同様なので割愛します。肖像画の完成度は高く、額装も凝っています。会場で是非ご覧ください。
挿絵原画「ジャック(クサヴィエ・マルミエ著『おばあさんのお話』)」1892年
コミカルでいてシリアスな挿絵。この物語を読みたくなりますよね。
水彩画「ヒナゲシ」1904年
“ミュシャは野原を散歩することを好み、小道の端に咲く美しいヒナゲシを好んでいたという。”(キャプションより一部引用)
花弁を色分けして写実的に表現する一方、左右対称に仕上げた装飾性の高い構図がユニークです。
素描「少女の肖像」 1915年
装飾画とは対極にあるシンプルな作品です。素描を拝見すると、画家としての確かな技量が直に伝わってきますね。
素描「上着を縫う少女」1938年
最後に拝見した作品は素朴なモティーフでした。
《ミュシャ展》会期は2025年1月5日まで。
価格:5976円 |