そごう美術館《ミュシャ展 マルチ・アーティストの先駆者》を鑑賞。(2024年11〜12月)

展覧会ダイジェスト版

過去の展覧会ダイジェスト版になります。

チェコ在住の個人コレクターであるズデニェク・チマル博士のコレクション(※)から、初来日作品約90点をふくむ約170点の選りすぐり(チラシより一部引用)

チマル・コレクションは、きわめて包括的にアルフォンス・ミュシャの作品を多数収蔵している世界有数のコレクションのひとつである。

2025年1月5日まで開催されていました。印象に残った作品をご紹介しましょう。尚、紺色の文字で表記した箇所は、パネル解説・キャプションより(一部)引用しました。

Ⅰ 挿絵画家としての出発

多様な分野で活躍したミュシャが広く知られるきっかけになったのは、雑誌や書籍の仕事であった。(中略) 第1章では、無名の画家であった頃から、徐々に自身を確立した時期のこれらの作品を紹介する。

雑誌『フィガロ・イリュストレ、1896年6月第75号』(レ・カフェ・コンセール特集)表紙「イヴニング・コンサート」1896年

雑誌『フィガロ・イリュストレ、1896年6月第75号』(レ・カフェ・コンセール特集)表紙「イヴニング・コンサート」1896年 リトグラフ/紙

「カフェ・コンセール」をネット検索。19世紀後半から20世紀のはじめのフランスの、ショーを見せる飲食店の形態とのこと。こちらの会場は屋外ですね。両腕を前に差し出した女性は歌手でしょうか。一体化した髪・羽飾りがゴージャス。小テーブル脚の曲線と彼女のくびれたウエストが似ています。椅子に掛けられた赤い布はガウンでしょうか?金色で表現された文字 FIGARO が際立ちます。中景には、正装したご婦人方がテーブルを囲む姿が描かれていました。

メニュー表「サラ・ベルナール50歳の誕生日会」1896年

メニュー表「サラ・ベルナール50歳の誕生日会」 1896年 リトグラフ/紙

サラの名を冠したケーキを含め、多数のきわめて豪華なごちそうがメニューとして記載されている。

メニュー表「サラ・ベルナール50歳の誕生日会」部分

サラ・ベルナールと思しき女性が、左右にかしずく女性からもてなされる場面が描かれていました。50歳の大女優ともなると貫禄が違います。挿絵が主でメニューは従。サラ・ベルナール✕ミュシャの最強タッグを窺うことのできる作品でした。

カレンダー「詩」1899年 

カレンダー「詩」 1899年 リトグラフ/紙

日付を刷り込むための余白が残されている。

こちらも挿絵が主で、カレンダー(日付)は従。こんな素敵なカレンダーだったら、絵画と同感覚で室内に飾ることができたのでしょう。

書籍「装飾アルバム」より「花言葉」(pl.35)、「ビザンティン」(pl.46) 1900年

装飾アルバム」は、複数の画家による多数の装飾パネルと装飾デザインが所収された3冊セットの図案集である。

書籍「装飾アルバム」より「花言葉」(pl.35) 部分 1900年 リトグラフ/紙
書籍「装飾アルバム」より「ビザンティン」(pl.46) 部分  1900年 リトグラフ/紙

繊細なタッチで濃密に描かれています。まさに美の集積…。

Ⅱ 成功の頂点―ポスターと装飾パネル

アール・ヌーヴォーが花開いたのは、産業や技術の発達に伴い生活水準も向上した時代であり、ポスターはそれを象徴するものであった。

本展の花形。濃紺の壁面が作品を引き立てていました。左から順に《ジスモンダ》・《椿姫》・《ロレンザッチオ》。

ポスター「ジスモンダ」1894年

ポスター「ジスモンダ」部分 1894年 リトグラフ/紙

このポスターは、フランスの大女優サラ・ベルナール(1844−1923)のために、ミュシャが手掛けた最初のポスターである。

真っ先に目を奪われた作品です。肖像画よろしく、サラ・ベルナールその人の面差しであろうことを想像しました。こんな素敵なポスターが初手から完成したら、タッグを組みたいと思いますよね。

ポスター「ジスモンダ」部分 1894年 リトグラフ/紙

衣装の裾に隠れるようにしている人物の表情が不気味。大衆の興味を引くため、故意に不穏な雰囲気に仕立てたのでしょうか。

⇩「ジスモンダ」についての優れた解説を見つけたので、リンクを貼っておきます。

ミュシャを楽しむために:ジスモンダのポスター

ポスター「椿姫」1896年

ポスター「椿姫」部分 1896年 リトグラフ/紙

星を散りばめたピンク色の背景がロマンチック。緩く結った髪に白い椿を飾り、瞼を半ば閉じて夢想する椿姫に惹かれました。

ポスター「椿姫」部分 1896年 リトグラフ/紙

ポスター下部には、白い椿の枝を持つ無骨な手が描かれています。彼女の足元にかしずいたパトロンが椿の花を捧げる場面でも添えたのでしょうか。仮にそのように解釈すると、一顧だにしない椿姫の気高い一面が垣間見えます。

ポスター「ロレンザッチオ」1896年

ポスター「ロレンザッチオ」部分 1896年 リトグラフ/紙

男装の麗人。纏う雰囲気も全く異なるため、展示室で拝見した時点では、よもや女優サラ・ベルナールの演目とは思いませんでした。

ポスター「ロレンザッチオ」部分 1896年 リトグラフ/紙

ポスター下部には、おどろおどろしい場面が描かれていました。

⇩「ジスモンダ」についての解説と同サイトに「ロレンザッチオ」の解説もあったので、リンクを貼っておきます。

ミュシャを楽しむために:ロレンザッチォ

右:カレンダー「ビザンティン風の頭部:ブロンド」1900年

左:カレンダー「ビザンティン風の頭部:ブルネット」1909年

美女の豊かな髪が円い枠からはみ出ていると、立体的に見えます。 2人が向かい合うように配置するのがお約束でしょうか。(背を向けて展示するのも変ですが…。)目を閉じる美女は、美貌は揺るがない、と言わんばかりの表情。

カレンダー「ビザンティン風の頭部:ブロンド」部分 1900年 リトグラフ/紙
カレンダー「ビザンティン風の頭部:ブルネット」部分 1909年 リトグラフ/紙

ポスター「黄道十二宮」1896年

ポスター「黄道十二宮」 1896年 リトグラフ/紙 

併設ミュージアム・ショップで、㈱東京美術―もっと知りたいシリーズ―『ミュシャ 生涯と作品 改訂版』(千足伸行せんぞくのぶゆき 著)を購入。この「黄道十二宮」(部分)がカバーに採用されています。巻末に紹介されている千足伸行氏の他のご著書も読みたくなりました。

ポスター「《スラヴ叙事詩》展」1928年

ポスター「《スラヴ叙事詩》展」 1928年 リトグラフ/紙

一際目立つポスターでした。

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Ⅲ 生活のなかのデザイン

アール・ヌーヴォーが興ったのは、消費文明が始まった時代でもあった。ミュシャは、自身の作品を広告に使用した、おそらく最初の芸術家である。

ビスケット缶のパッケージ(2種)

さまざまな商品に彼の図案が用いられた。これには、新たにデザインされたもののほかに、既存の図案が転用されることも多かった。

装飾皿「ビザンティン風の頭部:ブルネット1898年 

装飾皿「ビザンティン風の頭部:ブルネット」 1898年 エナメル塗装/金属

Ⅱに展示されていたカレンダー「ビザンティン風の頭部:ブルネット」と比較すると、顔の向きが異なるだけで、髪型・装飾品・衣装・円内の背景は同一。本作のデザインが、カレンダーに転用されたようです。

Ⅳ プライヴェートな生活の記録

クラスメイトや教師の顔といった素描の数々が描かれている学生時代のノートからは、彼が授業よりもデッサンを楽しんでいたことが伝わってくる。

素描集「学生時代のノート」と内部の複製 1876−1877年

学生時代のノート 1876−1877年
ノート内部(複製) 1876−1877年 墨、青色インク、鉛筆/紙

写真「《スラヴ叙事詩》の最後に完成された作品および「《スラヴ叙事詩》展」のポスターのためのモデルとなるヤロスラヴァ(ズビロフ)」1926

写真「《スラヴ叙事詩》の最後に完成された作品および「《スラヴ叙事詩》展」のポスターのためのモデルとなるヤロスラヴァ(ズビロフ)」1926年 写真/紙

Ⅱに展示されていたポスター⇩と比較してご覧下さい。

ポスター「スラブ叙事詩」展 部分

Ⅴ 唯一無二のオリジナル作品

現在は高い評価を得ているミュシャ直筆の作品を今日入手することはきわめて困難であるが、チマル・コレクションには稀少なオリジナル作品が多数所蔵されている。

挿絵原画「ジャック(クサヴィエ・マルミエ著『おばあさんのお話』)」1892年

挿絵原画「ジャック(クサヴィエ・マルミエ著『おばあさんのお話』)」 1892年 パステル、グワッシュ、水彩、白色ハイライト/紙

コミカルでいてシリアスな挿絵。この物語を読みたくなります。

水彩画「ヒナゲシ」1904年

水彩画「ヒナゲシ」1904年 水彩、グワッシュ/紙

ミュシャは野原を散歩することを好み、小道の端に咲く美しいヒナゲシを好んでいたという。

水彩画「ヒナゲシ」部分

花弁を色分けして写実的に表現する一方、左右対称に仕上げた装飾性の高い構図がユニーク。

素描「少女の肖像」 1915年

素描「少女の肖像」 1915年 木炭、白色ハイライト/紙

装飾画とは対極にあるシンプルな作品。素描を拝見すると、画家としての確かな技量が直に伝わってきます。

素描「上着を縫う少女」1938年

素描「上着を縫う少女」1938年 鉛筆、水彩、パステル/紙

最後に拝見した作品は素朴なモティーフでした。

以上、印象に残った展示作品をご紹介しました。

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