サントリー美術館《没後300年記念 英一蝶》を鑑賞。(2024年/秋)

過去の展覧会

 過去の展覧会(ダイジェスト版)になります。

副題は『風流才子、浮き世を写す』。2024年9月18日から11月10日まで開催されていました。《舞楽図屏風》のみ撮影することができました。章立ての展示構成に沿って、印象に残った展示作品をご紹介しましょう。尚、紫色の文字で表記した箇所は、展示室内の解説より(一部)引用しました。

第1章  多賀朝湖時代

投扇図 一幅 江戸時代 17世紀 板橋区立美術館蔵

扇子を投げて鳥居の上部を潜らせる遊びに興じる男たちが描かれています。扇子を投げた男はその行方を目で追い、鳥居の下で身体を仰け反らせた男は左腕を上げて指し示しています。もう一人の男は扇子をまさに投げようとしています。

3人の人物を配した構図が秀逸。2人の視線・指の向く先に、寸分の狂いなく扇子が描かれていることに驚きます。鑑賞者の視線も自ずと鳥居を潜る扇子へ向かいます。鳥居・樹木の猫写を適度に省略し、彩色を淡くすることで、素朴な雰囲気に仕上がっています。

吉野・龍田図屏風 六曲一双 京都国立博物館蔵

吉野の桜と龍田の紅葉を、春秋を象徴する景物として左右に表す。淡墨と彩色による穏やかな猫写は細部まで抜かりがない。

京都国立博物館
京都国立博物館の館蔵品を公開しているデータベースの吉野・龍田図屏風詳細ページです。

右隻は満開の桜に彩られた吉野の景観。馬子、舟に柴を積む人、川を筏でくだる人、牛を牽く子供…等々。起伏に富んだ山の麓で暮らす人々の営みが生き生きと猫写されています。駕籠かき、駕籠で参詣に訪れた人らしき姿も見受けられます。絵の中に『金剛山』『蔵王堂』等々、複数の名称が記されていました。帰宅後、国立文化財機構サイトからダウンロードした解説には『金峯山寺蔵王堂きんぷせんじざおうどう』が描かれている旨、記載がありました。

左隻は紅葉に彩られた龍田たつたの景観。『龍田新宮』『龍田川』等の名称が読み取れました。峰々が連なり、水量の豊かな川の猫写が一際美しい。川を眺める馬上の男性、川釣りを楽しむ子供たち、柴を運搬する人、稲刈りに精を出す人…。国立文化財機構サイトからダウンロードした解説には『龍田大社』が描かれている旨、記載がありました。客待ちの駕籠かき、参詣客の姿が描かれています。中には鳥居によじ登る人も。

距離を省略したり、場面を転換したりする手段として、屏風絵にはよく『雲』が描かれますよね。本作では、白茶色に塗られた帯状の部分がその役割を担っています。霞がかかっているようでもあり、桃源郷をイメージさせる幻想的な作品に仕上がっています。

第2章  島一蝶時代

〈島一蝶〉と呼ばれた所以は、公式サイトに詳述されています。その一部を引用します。

40代ですでに絵師として不動の人気を得ていた一蝶は、突然悲劇に見舞われます。(中略) 元禄11年(1698)、三宅島へ流罪となります。(中略) 三宅島での生活は47歳から58歳までの足かけ12年におよび、〈島一蝶〉と呼ばれる、一蝶の画業を象徴する作品が多数生まれました(公式サイトより一部引用)

✧《神馬図額しんめずがく1699年頃 東京・稲根神社蔵

馬の目には金泥が施され、超自然的力を宿していることが暗示されている。

左端に「元禄十二□歳五月吉祥」※と墨書されています。大きく描かれた馬の身体は一見、黒く塗りつぶされていますが、よくよく見ると、たてがみ・尾には別の色で加筆され、先端の毛が丁寧に描かれています。地を蹴る脚に躍動感と力強さを感じます。(※□は判りませんでした。)

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感想(8件)

第3章  英一蝶時代

配流先の三宅島から江戸へ奇跡的に戻った一蝶は、画名を「英一蝶」に改め、精力的に制作に励みます。名の由来は、中国戦国時代の思想家・荘子の「胡蝶の夢」で、島での生活や恩赦の知らせが夢か現実かと思い悩む心情を、この説話になぞらえたとされています。(公式サイトより一部引用)

✧《舞楽図六曲一双 メトロポリタン美術館蔵

両面屏風。第2展示室から表面おもてめん《舞楽図屏風》、第3展示室から裏面《唐獅子図屏風》を鑑賞することができました。両面屏風を鑑賞するのは、尾形光琳《風神雷神図屏風》、酒井抱一《夏秋草図屏風》以来かも。

《舞楽図屏風》右隻
《舞楽図屏風》右隻(部分)
《舞楽図屏風》左隻
《舞楽図屏風》左隻(部分)
《舞楽図屏風》左隻(部分)

全面に金箔が貼られた彩色豊かな作品です。個性的な衣装や演出に目が釘付けになりました。撮影できる唯一の展示作品でした。

✧《雨宿り図屏風六曲一隻 東京国立博物館蔵

雨宿りは一蝶にとって特別な主題だったようで、晩年の大作が2点残る。門の下に集う人々は年齢や職業もばらばら。本来であれば関わることのなかった老若男女が、にわか雨という自然の力によって、同じ空間で身を寄せ合う、その不思議な一体感を一蝶は見事に活写する。

雨宿りする人だけでなく、門前を行き交う人も描かれています。もう一本の傘を抱えて足早に通り過ぎる人、蓑を被って馬を牽く人、売り物を背負って駆ける人。あまりにリアルなので、実景に近いのでは。雨脚はかすかに描かれ、屋根・塀・樹木を描き切らないことで、雨に煙る空気感が表現されています。

✧《雨宿り図屏風六曲一双 メトロポリタン美術館蔵

一蝶の風俗画の到達点というべき傑作。東京国立博物館本とほぼ同図様だが、本作は、雨によって水量の増した水辺と、しっとり濡れた竹藪が右側に描かれるなど、情景描写がより充実している。

東京国立博物館蔵《雨宿り図屏風》も見応えがありましたが、本作品を拝見した途端、身体に染み渡るような感動を覚えました。ディテールも異なり、低空を飛ぶ5羽の燕が趣を添えています。雨脚こそ描かれていませんが、垂れ込める雲によって、俄には回復しない天候を表現しています。

以上、印象に残った展示作品をご紹介しました。

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