上野・国立西洋美術館《モネ 睡蓮のとき》開催中。2025年2月上旬までロング・ラン。

展覧会

冒頭は、受付を終えて踊り場から撮影した階下の光景。

10月5日から2025年2月11日まで《モネ 睡蓮のとき》が開催されています。観覧料は一般2,300円。パリのマルモッタン・モネ美術館より50点が来日。国内に点在する作品も集結。過去最大規模となる《睡蓮》の競演を会場で是非ご堪能ください。

開幕した翌週、開場15分前に到着。門の手前には当日券を購入する人の列。今回は前売券を購入したので通過。その先に長蛇の列ができていました。最後尾へ向かいながら、ざっと数えると250人ほど。開場前におそらく400人前後並んだかと思います。開場時刻と同時に列が動いて、程なくして入場。会場入口に至る階段も滞りはありません。階段下スペースにも沢山のロッカーが備え付けられていますよ。

本展は章立ての構成となっています。第3章の展示作品(9点)のみ撮影できます。印象に残った展示作品を順にご紹介しましょう。

第1章 セーヌ川から睡蓮の池へ

最初の展示作品はno.3《陽を浴びるポプラ並木》(1891年/国立西洋美術館蔵)。明るい色調が魅力的な一枚です。

no. 1《舟遊び》(1887年/国立西洋美術館蔵)は、“セーヌ川支流エプト川”(キャプションより)で舟遊びをする二人の少女が描かれています。“モネが再婚する相手の連れ子(主旨)”(キャプションより)とのこと。こちらに顔を向けている左側の少女は、目・鼻・口が描かれていません。確か《日傘をさす女》もそうでしたね。描かれていないことに特別の意味が込められているのでは…と思ってしまいます。

no. 6《ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出》(1897年/マルモッタン・モネ美術館蔵)は、一瞬、東山魁夷を彷彿させる色調の作品。画面下半分に水量豊かな川面が描かれ、岸辺に生い茂る樹木の緑を映しています。夜が明けて空が白んできた時間帯。霞がかった遠景は樹木とも雲とも。“1896〜1898年、セーヌ河の眺めを主題とした連作20点を手掛けた。毎朝3時半に起床し、光・大気の変化をとらえるため、14点のカンヴァスを並行して描いた。(主旨)”(キャプションより)とのこと。

no.15ウォータールー橋、ロンドン》(1902年/国立西洋美術館蔵)は、画面全体が薄紫色に染まる幻想的な作品。近くで拝見すると、黄緑色・茶色・青色等、多くの色を使用していることが判ります。アーチ状の橋桁に施された陰影が、橋の頑丈な質感・立体感を表現しています。テムズ川を下る帆掛船が5、6艘描かれ、川の水流・水量を推し量ることができそうです。

no.12《チャーリング・クロス橋》(1899年/メナード美術館蔵)は、“1899年、1900年、1901年と3度ロンドンを訪れ、テムズ河に架かるチャーリング・クロス橋を描いた連作34点の中の一枚(主旨)”(キャプションより)。画面全体がピンク色に近い薄紫色。近景の岸辺、中景の橋、遠景に屹立する塔(でしょうか)は青色がかった薄い紫色で描かれています。川に帆掛け船のような影がうっすらと見えます。水面の煌めきが一際美しい。

no.13《テムズ河のチャーリング・クロス橋》(1903年/吉野石膏コレクション、山形美術館に寄託)は、第1章で最も魅了された作品。一見すると夕景。空には様々な色が塗り重ねられ、画家の技量が遺憾なく発揮されています。まだ日は高く日没まで間があるのに、川は太陽光を反射してオレンジ色に輝いています。斜めに立ち昇る汽車の煙が橋の上(2箇所)に描かれています。白色を加えた紫色の煙がアクセントとなっています。装飾的な金色の額縁が絵を引き立てていると思います。

no.21《睡蓮》(1903年/マルモッタン・モネ美術館蔵)は、モネの描いた連作の中で、実景を最も忠実に写した作品かと思います。池に浮かぶ葉の連なりが丸い形を形成して10ほど描かれています。手前は白い花、その先はピンクの花、その先は白い花…。景色を愛でるように鑑賞できる一枚です。

第2章 水と花々の装飾

no.30・no.31《藤》(1919−1920年頃/マルモッタン・モネ美術館蔵)

同一の主題で描かれた大作2点が並んで展示されています。多彩な色遣い・大胆な筆遣いに魅了され、行きつ戻りつ鑑賞しました。no.30は、煙るような大気が薄紫色で表現されています。画面上部に描かれた藤棚は、緑色・青色・白色を駆使して色彩豊かno.31はやや前衛的です。オレンジ色・青色等で短く、時に長く引かれた線は一体何を表現しているのでしょうか。

“睡蓮の装飾画の上部に藤の花をモティーフとするフリーズ(帯状装飾)を設置することを計画していた。”(キャプションより一部引用)とのこと。音声ガイドによると、“妻・息子と死別したモネは、1918年11月、第一次世界大戦休戦の翌日、友人クレマンソー首相に「勝利の日に署名する」という内容の手紙を送り、この装飾画を国家に寄贈する仲介を依頼していた。(主旨)”とのこと。音声ガイドで本作が“習作”と紹介されたことに驚きました。以前、東山魁夷画伯が描いた下絵の完成度に驚愕したことがあります。日本画に例えると、そんな下絵に相当するでしょうか。

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感想(5件)

第3章 大装飾画への道

no.45《睡蓮、柳の反映》(1916年?/国立西洋美術館蔵)

《睡蓮、柳の反映》1916年?/国立西洋美術館蔵

“松方幸次郎は、1921年にジヴェルニーのモネの家を訪れ、18点ほどの作品を画家から直接購入しました。本作もその一つで、大装飾画の関連作品を外に出すことを嫌ったモネが、生涯で唯一、売却を認めた装飾パネルです。(中略)第2次世界大戦を経て、長らく所在不明となっていましたが、2016年にルーヴル美術館において、画面の大部分が破損した状態で再発見されました。”(キャプションより一部引用)

負の遺産、と言えるでしょうか。キャプションを読む限り、第2次世界大戦時に破損した、と解釈するのが自然ですよね。来館者の多くがキャプションを熱心に読んでいました。

no.40《睡蓮》(1916年/国立西洋美術館蔵)

《睡蓮》1916年/国立西洋美術館蔵

“垂直方向に強調された濃い青の硬質な筆致が、水中の神秘的な深みをも暗示しています。(中略)睡蓮の花が色鮮やかに咲き誇る水面と、そこに映り込む周囲の木々や空の反映、そして水草が揺らめく水底という、重層的な絵画空間が生み出されています。”(キャプションより一部引用)

《睡蓮》部分 1916年/国立西洋美術館蔵

離れて拝見した時、縦に描き込まれた線は水草を表現しているのかな…と解釈しました。近くで拝見すると、驚くほどあからさまに加筆されていることが判ります。椿のように赤い睡蓮の花は珍しい。同じ赤色で、睡蓮の葉を縁取ったり影をつけたりしている色遣いも独特です。

no.36《睡蓮》(1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館蔵)

《睡蓮》1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館蔵

“水面に映し出される雲の反映像は、モネの風景画において初期から頻繁に描かれてきましたが、《睡蓮》に限っていえば、1909年以前の作例にはほとんど登場しません。しかし、1914年以降の大装飾画の制作において、このモティーフは、池の周囲に植えられた枝垂れ柳とその反映像とともに、きわめて重要な位置を占めるようになります。”(キャプションより一部引用)

展示室の奥、正面に展示されているだけあって、本展を象徴する作品と申し上げて良いでしょう。枝垂れ柳と睡蓮の競演。柳の濃い緑色と睡蓮の明るい緑色の対比が味わい深い。ピンク色の睡蓮の花が華やかさを添えています。水面に映り込む青空・白い雲を描くことで、戸外の大空間をも表現した一枚。

《睡蓮》部分 1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館蔵

第4章 交響する色彩

第4章の展示作品は、20点全てがマルモッタン・モネ美術館から来日。

連作《日本の橋》8点が展示されています。モティーフとして、中央下部に太鼓橋が描かれていることが辛うじて視認できます。周囲の自然と渾然一体となっています。白内障を患い、視力を殆ど失っても尚、創作意欲は旺盛。エネルギーほとばしる作品が鑑賞者を圧倒します。

連作ばらの小道》3点が展示されています。モネの家から睡蓮の池へ向かう途中「ばらのアーチ」が築かれていたことは、画像等で存じていましたが、モティーフとなった作品は初見です。連作《ばらの庭から見た(画家の)家》4点も並んで展示されています。

エピローグ さかさまの世界

no.66《枝垂れ柳と睡蓮の池》(1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館蔵)

no.67《睡蓮》(1916−1919年頃/マルモッタン・モネ美術館蔵)

“この2点はいずれも、オランジュリーの大装飾画のうち《柳のある朝》の左パネルに関連する習作で、no.66の枝垂れ柳が描かれた場所から画面奥の岸辺まで近づき、水面へと視線を移したものがno.67の《睡蓮》です。”(キャプションより一部引用、全て黒字表記。)

2点とも同サイズの大作。モティーフの一つが枝垂れ柳であるためか、やや縦長の構図となっています。no.66は、画面中央やや左に、枝垂れ柳のどっしりとした幹が描かれています。垂れ下がる柳の葉にボリュームがあり、豊かな自然を存分に表現しています。柳を模したように波状に描かれた幹には、茶色・ピンク色・緑色等が塗り重ねられ、重厚感を醸し出しています。空の描写に使用された水色が爽やか。no.67は近景に岸辺、垂れ下がる柳の葉が描かれています。何故か判りませんが、柳の葉は真ん中で半ば分断されています。(12/21追記=『ぶらぶら美術・博物館』(12/20放送)での解説によると、下部の柳は「水面への反映」とのことです。)水面には沢山の睡蓮の葉が浮かび、白色・赤色の花がちらほら見えます。紫色で描かれた池の描写に惹かれます。

以上、印象に残った展示作品を14点ご紹介しました。あなたが鑑賞される際の一助となれば幸いです。

展覧会公式サイトによると、本展アンバサダー/石田ゆり子さんが出演される特別番組『news every.特別編 ひたる 石田ゆり子が、モネに。』が10月13日16時より日本テレビで放送されるそうです。

―余談①― 観覧に2時間前後かかります。展覧会は会期後半に混雑する傾向にあるので、じっくり観たい作品以外は流す判断も必要かと思います。根気の続かない私は割り切って鑑賞しました。

―余談②― 連作には、同じタイトルの作品が多数あります。極力気を付けましたが「作品no.」を取り違えた可能性も…。間違っていたらごめんなさい。

―余談③― 観覧した翌日にアップできるよう心掛けています。言い回しの変更・フォントの修正等、上書きすることも。大事な補足・変更・訂正については【追記】と断り書きをしています。

《モネ 睡蓮のとき》会期は2025年2月11日まで。

―2024/11/17追記―

11月24日9:00〜9:45 Eテレ『日曜美術館』にて『モネ 睡蓮にひたる』が放送されます。

―2024/11/24追記―

12月1日20:00〜20:45 Eテレ『日曜美術館』にて『モネ 睡蓮にひたる』(再)が放送されます。

放送予定 - 日曜美術館
「日曜美術館」の今後の放送(再放送を含む)予定一覧です。

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