上野/東京国立博物館にて特別展《蔦屋重三郎》を堪能!

展覧会

副題は《コンテンツビジネスの風雲児》。会期は4月22日から6月15日まで。観覧料は一般2,100円、大学生1,300円です。

会期中、一部作品の展示替え・場面替えが予定されています。前期は5月18日まで、後期は5月20日から。展示作品の撮影は不可。(第2会場にセッティングされた附章《天明寛政、江戸の街》のみ撮影できます。)

開幕3日目に来館。作品数が膨大なため、半日がかりは当たり前。トーハクは体力勝負です。途中で私は挫けてしまいました。観覧できたのは全体の7割ほど。その中から印象に残った作品をご紹介しましょう。茶色の文字で表記した箇所は、パネルの解説・キャプションより(一部)引用しました。

第1章 吉原細見・洒落本・黄表紙の革新

(前略) 蔦重はすぐさま優れた手腕を発揮して、江戸で流行した富本節とみもとぶしの歌詞を載せた富本正本や初等教育書といえる往来物おうらいもののような手堅い定番商品を手がけ、さらには人気の作者や絵師を抱えて江戸の人びとにとって手軽な読み物である戯作げさくの出版に乗り出した。風刺や滑稽を織り交ぜ、吉原の「今」をふまえた洒落本しゃれぼんや、当時の現実世界を写実的に表わした、知的でありながら、奇想天外な笑いを込めた黄表紙きびょうしは人びとの心を強くとらえ、(中略) 流行作家が生んだ傑作の数々を世に送り出した。

No.1 隅田川図巻 鳥文斎栄之筆 1巻 文化期(1804〜18) 東京国立博物館蔵

恵比寿、大黒天、福禄寿の三福神が、隅田川を猪牙舟ちょきぶねでさかのぼり吉原で遊ぶ。淡彩で描かれた美しい巻物です。三福神が舟に乗ろうと川岸に佇む場面から物語は始まります。此岸・隅田川・対岸の景観を俯瞰しつつ、視線を左へ投じると、三福神が此岸を駕籠で行く近景に切り替わります。更に、ワープしたかのように、吉原で酒宴に興じる三福神の姿が描かれています。

板橋区立美術館で過日開催された《エド・イン・ブラック》で、同じ画題の巻物 ― 鳥文斎栄之《三福神吉原通い図巻》江戸時代(19世紀) 個人蔵 ― を拝見しました。その作品は、駕籠に乗った三福神が隅田川沿いを行く場面が墨で描かれ、華やかに彩色された吉原の祝宴場面との対比が効いていました。

No.2 四季三遊里風俗図 歌川豊春筆  4幅 寛政7年(1795) 個人蔵

下段に吉原、中段に深川、上段に品川の各遊郭を描き、四幅対で絵柄が繋がる。四幅対の掛け軸は初見です。遠目には、一枚の掛け軸のよう。四幅の展示間隔が小さく、ほぼ繫がる景観に妙味があります。上段に配された品川から、当時は富士山の全貌を仰ぐことができたのですね。三幅に跨る富士の山裾・周辺の山並みが、左幅の月と相まって優美です。

『吉原細見』― 顧客視点の原点  吉原の案内手引書「吉原細見」を蔦重は刷新した。本の大きさを変え、見やすさを損なわず、2貢分の情報を1貢に凝縮するなど、コストダウンを成し遂げた。

場面替 No.18 まがきの花 1冊 安永4年(1775)7月 東京都江戸東京博物館蔵

場面替 No.19 まがきの花 1冊 安永4年(1775)7月 大阪・関西大学図書館蔵

最初の蔦重版「吉原細見」。溢れんばかりの情報量と、読みながら町歩きができるデザインが見どころ。蔦重版が大きい訳ではなく、従来の「吉原細見」が思いの外小さかったことが判りました。屋標・店主の名前・遊女の名前・合印(山と星の印で遊女の格を示している)を確認しながら鑑賞しました。

一目千本ひとめせんぼん」― 出版活動の開始 蔦重がはじめて独自に出版した「一目千本」(No.24)は、遊女を花に見立てた遊女評判記。妓楼ぎろう(遊女屋)の店主や遊女からの「入銀にゅうぎん」(出資を募って出版すること)によって制作された。これは贔屓客などに配られたとされ、蔦重のビジネスモデルを象徴する。

場面替 No.24 一目千本 紅塵陌人作/北尾重政画 2冊 安永3年(1774)7月 大阪大学附属図書館 忍頂寺文庫

蔦重が初めて手がけた出版物。流行の生け花に遊女をなぞらえて紹介する遊女評判記。大河ドラマ『べらぼう』では、遊女たちが店主から「入銀」を一方的に押し付けられ、蔦重が両者の板挟みとなった回が放送されましたよね。「葛花」になぞらえられた遊女が話題になった場面もドラマにありました。

場面替 No.39 青楼美人合姿鏡 北尾重政・勝川春章画 安永5年(1776)正月 東京国立博物館蔵

人気絵師2名による遊女164名の姿絵と、その発句を載せた絵本。

《青楼美人合姿鏡》(部分) 北尾重政・勝川春章画 安永5年(1776)正月 東京国立博物館蔵 (ポストカードを撮影)

大河ドラマ『べらぼう』で、蔦重がこの貢を瀬川に見せる場面がありましたね。「瀬可ハ」と仮名交じりで表記されています。着物の柄こそ異なりますが、遊女の顔・髪型は皆同じように見えます。

人気作家・山東京伝を売り出す (前略) 蔦重ははじめ山東京伝(北尾政演)を浮世絵師として起用していた。京伝が鶴屋喜右衛門を版元として出した「御存商売物ごぞんじのしょうばいもの」(No.60)が大田南畝おおたなんぽから評価され大ヒットすると、蔦重も京伝を戯作者として起用しはじめていくこととなる。

前期展示 No.69 大名屋敷の山東京伝 喜多川歌麿筆 1組 天明8年〜寛政2年 東京国立博物館蔵

衝立の陰で女性に耳打ちされている男性が京伝。

ネットで画像を探してみました。リンクを貼っておきます。

大名屋敷の山東京伝 文化遺産オンライン

大判錦絵3枚続私の嗜好で恐縮ですが、本展(前期)の五指に挙げたい…と思う作品。近景は、衝立等で緩く仕切られた座敷。仕事をしている人もいますが、多くの女性は思い思いに過ごしている様子。同輩に介抱される女性、京伝に耳打ちする女性、聞き耳を立てる女性まで…。中景は、楽器(横笛・鼓等)を奏でる男たちを交えた舞の見物客たち。遠景は、縁側に座る殿様・家臣と思しき一群。色調は全体的に淡く、色数も限定的(6、7色ほど)なので、品良く見えます。立姿の女性の羽織物・衝立に黒色が使われています。淡彩の画面を引き締め、格調高い雰囲気を醸し出しています。

場面替 No.70 吉原傾域新美人合自筆鏡 北尾政演(山東京伝)筆 1帖 天明4年(1784)正月 東京国立博物館蔵

蔦重と政演(京伝)がつくった豪華な吉原本。遊女自筆の狂歌や詩が載っている。山東京伝の作品は初見。柔らかい筆致で、たおやかな女性たちを表現しています。もしや、遊女自筆の狂歌や詩の出来が人気を左右した側面もあったのでしょうか。

第2章 狂歌隆盛―蔦唐丸、文化人たちとの交流

勿体ない話ですが、ほぼ丸ごと割愛しました。

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感想(7件)

第3章 浮世絵師発掘―歌麿、写楽、栄松斎長喜

寛政期(1789−1801)に、蔦重は浮世絵界に進出した。喜多川歌麿、東洲斎写楽(1763−1820)、栄松斎長喜(生没年不詳)といった名だたる絵師たちを発掘し、彼らの魅力を最大限に生かした浮世絵を企画・出版した。(以下、割愛)

前期展示 No.130 重要美術品 青楼仁和嘉女芸者部せいろうにわかおんなげいしゃのぶ 大万度おおまんど 荻江おぎえ おいよ 竹次たけじ 喜多川歌麿筆 天明3年(1783) 東京国立博物館蔵

吉原の芸者たちが仮装して練り歩く吉原俄よしわらにわかを題材にした、歌麿の初期作品。

重要美術品《青楼仁和嘉女芸者部 大万度 荻江 おいよ 竹次》(部分) 喜多川歌麿筆 天明3年(1783) 東京国立博物館蔵 (ポストカードを撮影)

初期作品とは思えない完成度です。仮装しても、芸者が纏う艶やかさは変わりません。

刀剣・日本刀の専門サイト⇓ に『重要文化財』と『重要美術品』の違いについての記載がありましたので、リンクを貼っておきます。

国宝・重要文化財・重要美術品の違いとは
「国宝・重要文化財・重要美術品の違いとは」では、それぞれの定義を見ながら違いについて解説。実例として「天下五剣」と、「刀剣ワールド財団」が所蔵する日本刀をご紹介します。

大首絵おおくびえ (前略) 従来、美人画は全身像が一般的だったが、蔦重と歌麿は「美人大首絵」を発表した。外見的な姿かたちだけでなく、その心情までをも表現しようとした点が高く評価されている。

前期展示 No.139 重要文化財 婦人相学十躰ふじんそうがくじってい 浮気之相うわきのそう 喜多川歌麿筆 1枚 寛政4〜5年(1792〜93) 東京国立博物館蔵

歌麿の最初期の美人大首絵。手ぬぐいを肩に掛けた風呂帰りの女性。何故か、前が大きく開き、片方の乳房が見えています。風呂帰りなのに、綺麗に結われたままの髪も不自然。すんなり帰宅するとは思えない。意味深長な画題です。

前期展示 No.142 婦女人相十品 ポッピンを吹く娘 喜多川歌麿筆 寛政4〜5年(1792〜93)頃 東京国立博物館蔵

ポッピンを口にした町娘が、ふいに声をかけられ振り返り、勢いよく袖が翻る。

《婦女人相十品 ポッピンを吹く娘》(部分) 喜多川歌麿筆 寛政4〜5年(1792〜93)頃 東京国立博物館蔵  (ポストカードを撮影)

ミュージアム・ショップに本作のポストカードもあったので、取り上げてみました。ふいに声をかけられ振り返ったシチュエーションというのは、後世に読み解いたのでしょうか。

前期展示 No.145 婦女人相十品 文読む女 喜多川歌麿筆 1枚 寛政4〜5年(1792〜93)頃 東京国立博物館蔵

真剣な眼差しで手紙を読む女性。恋文だろうか、手に力がこもっている。既読・未読部分を両の手で巻いて握り締め、顔の高さに保持しています。その力のこもり方から察すると、ロマンチックな内容ではないように思いますが…。眉毛がない女性は既婚でしたよね。

雲母摺 雲母うんもという鉱物を粉にして摺る技法。蔦重が歌麿や写楽の大首絵に活用した。(以下、割愛)

前期展示 No.151 重要美術品 当世踊子揃 鷺娘 喜多川歌麿筆 1枚 寛政5〜6年(1793〜94)頃 東京国立博物館蔵

白雲母摺の背景に、吉原芸者が舞踊を見せる躍動感ある一図。華やかな作品。透けた笠越しに、櫛目の整った美しい黒髪が見えます。総じて、歌麿作品の出来栄えは際立っています。

歌麿と栄之 鳥文斎栄之は、気品のある画風で、最高位の遊女を多く描いたほか、古典題材を取り入れた浮世絵を描き、上流階級からの名声を博した。(以下、割愛)

前期展示 No.175 風流五節句 人日じんじつ    鳥文斎栄之筆 1枚 寛政5〜6年(1793〜94)頃 東京国立博物館蔵

前期展示 No.177 風流五節句 七夕   鳥文斎栄之筆 1枚 寛政5〜6年(1793〜94)頃 東京国立博物館蔵

淡彩で仕立てられた格調の高い画風に魅了されます。この気品のある画風はNo.1《隅田川図巻》にも存分に発揮されています。

栄松斎長喜えいしょうさいちょうき―新たなトレンドの創出 (前略) 面長で肩幅のせまい、どこか柔らかい雰囲気の人物猫写を得意とし、江戸だけでなく大坂の太夫たゆう芸子げいこを描いた。蔦重は長喜を起用することで、歌麿とは異なる新たなトレンドを生み出そうとしたようだ。

前期展示 No.205 重要美術品 四季美人 雪中美人と下男 栄松斎長喜筆 寛政4〜6年(1792〜94)頃 東京国立博物館蔵

重要美術品 《四季美人 雪中美人と下男》(部分) 栄松斎長喜筆 寛政4〜6年(1792〜94)頃 東京国立博物館蔵 (ポストカードを撮影)

下駄に詰まった雪を男性が払う場面。背景に胡粉を散らして雪を表現した意欲作。タイトルからすると、下男が主人筋の女の下駄の雪を払っている場面。男も女も、描かれているのは上半身ですが、その体勢から足下を想像させる手法が秀逸だと思います。

前期展示 No.207 重要文化財 井筒中居かん 芸子あふきやふせや 栄松斎長喜筆 1枚 寛政4〜5年(1792〜93)頃 東京国立博物館蔵

大坂の芸者と仲居を主題とした作品。髪型にも江戸との違いが表われている。二人共、やや吊り目でおちょぼ口。仲の良い姉妹に見えます。井筒中居かんの左腕は袖から出ていますが、芸子あふきやふせやの左腕は袖の中に隠れています。職種の違いをそれとなく表現したのでしょうか。

勝川春朗かつかわしゅんろう(葛飾北斎) 葛飾北斎が勝川春章の門人だった30代前半頃まで名乗っていた名前。春章と親しくしていた蔦重は、弟子であった若き北斎の才能にもいち早く気付き、美人画や役者絵、黄表紙の挿絵などを依頼している。

前期展示 No.214 三代目坂田半五郎の旅の僧実は鎮西八郎為朝ちんざいはちろうためとも 勝川春朗(葛飾北斎)筆 1枚 寛政3年(1791) 東京国立博物館蔵

石碑を挟んで役者が向き合いにらみ合うさまが勝川派の画風で描かれている。北斎さんは若い頃から人物表現に長けていたのですね。口を引き結んだ寄り目の男が、布に包んだ髑髏を懐から取り出しています。その大仰な顔・仕草から、モチーフが役者であることが判ります。

東洲斎写楽とうしゅうさいしゃらく―役者絵独占の野望 わずか10か月間で140点を超える作品を残して忽然と姿を消した絵師。阿波の能役者・斎藤十郎兵衛さいとうじゅうろべえとされる(以下、割愛)

(前略) 役者絵制作は、寛政6年(1794)5月の芝居興行を、黒雲母摺くろきらずりの豪華版で描いた全28図。役者を理想化するのではなく、顔の特徴をすべて暴き出したリアルな表現が特徴。(以下、割愛)

前期展示 No.219 重要文化財 初代 市川男女蔵いちかわおめぞう奴一平やっこいっぺい 東洲斎写楽筆 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 

重要文化財 《初代市川男女蔵の奴一平》(部分)  東洲斎写楽筆 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 (ポストカードを撮影) 

前期展示 No.220 重要文化財 三代目 大谷鬼次おおたにおにじ江戸兵衛えどべえ 東洲斎写楽筆 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 

重要文化財 《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》(部分) 東洲斎写楽筆 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 (ポストカードを撮影) 

奴一平と、襲いかかろうとする江戸兵衛が向き合う緊迫した場面。No.219もNo.220も拝見した途端、写楽と判る作品。両手の指を最大限に広げたNo.220は、金を奪おうと近付く場面なのですね。引き結んだ大きな口、大きな耳も特徴的です。

附章 天明寛政、江戸の街

蔦重が活躍した18世紀後半の江戸は、経済や文化が著しく成長し、「大江戸おおえど」と呼ぶにふさわしい都市へと発展した時期にあたる。(中略) ここでは、蔦重が「耕書堂こうしょどう」を構えた天明・寛政期の江戸の街を彷彿させる空間を、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺つたじゅうえいがのゆめばなし〜」の世界観とともにご覧いただきたい。

附章の入口

荷車に米俵。令和の米騒動とは無縁ですね。

スクリーンの手前、右側のセット。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』浮世絵イラスト  ドラマではオープニングシーンを彩る「浮世絵イラスト」が各回に登場します。ドラマ本編の世界を浮世絵のように表現するため新たにイラストを描き起こしました。(中略) 現代の役者の特徴や表情を残しつつ浮世絵風に作画しています。

瀬川の花魁道中も。

本橋あたりの街並みの1日 蔦屋重三郎が生きていた当時の江戸・日本橋の1日、春夏秋冬をタイムラプス動画にして4画質で投影しています。

刻々と変わるので、楽しいですよ。

スクリーンの手前、左側のセット。

耕書堂の店先
耕書堂の内部

観覧時間の目安は、混み具合にもよりますが、3時間半前後。チケット半券を提示すると、当日に限り再入場できます。

《蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児》会期は6月15日まで。

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
江戸時代の傑出した出版業者である蔦重こと蔦屋重三郎(1750~97)は、喜多川歌麿、東洲斎写楽といった現代では世界的芸術家とみなされる浮世絵師を世に出したことで知られています。本展ではその蔦重の活動をつぶさにみつめながら、天明、寛政(178...
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