広尾/山種美術館《上村松園と麗しき女性たち》を堪能。(2025年/春〜夏)

展覧会

《生誕150年記念》特別展の会期は5月17日から7月27日まで。入館料は一般1,400円。

上村松園22点の優品に加えて、周年の重なった小倉遊亀(生誕130年)、片岡球子(生誕120年)の作品群も展示されるとのこと。『西の松園、東の清方』と称される鏑木清方が手掛けた珠玉の名品も観覧できるとあって嬉しい限り。開幕の翌週、来館しました。(緑色箇所は本展チラシより引用。)

原則的に撮影不可。上村松園《杜鵑ほととぎすを聴く》のみ撮影できます。順路に沿って、印象に残った作品をご紹介しましょう。松園の作品については、ポストカードを撮影して掲載しました。ピンク色の文字で表記した箇所は、パネルの解説・キャプションから(一部)引用しました。

第1章 上村松園の美人画

(前略) 松園は美麗な女性を描く一方で、「婦人の悲哀の情緒」を崇高に表現するにはどうすれば良いかと苦悩し、モデルの登用や女性の情念の描出など、さまざまな試みに挑戦しました。そのような葛藤の時期を経て、自らの進むべき道を見いだします。後に「真・善・美の極致に達した本格的な美人画」と語った、松園独自の女性像を追求していくのです。(以下、割愛)

No.6 上村松園 新蛍しんけい 1929(昭和4)年 絹本・彩色 山種美術館

すだれ 越しの女性の姿は、優雅で奥ゆかしい趣があり、松園もたびたび描いた。本作品のように、夏の風物詩である団扇うちわ、蛍とともに取り合わせた例も多く、《夕べ》(No.8)も同じ趣向による。(中略) 1930(昭和5)年、ローマで開催の日本美術展に出品された松園の代表作の一つである。

上村松園《新蛍》1929(昭和4)年 絹本・彩色 山種美術館

松園54歳時の作品。一点拝見した時点で、本展の代表作と申し上げても良いのではないかと思うほど。(本展に限らず、足を踏み入れた正面壁面には、見惚れる作品が毎回展示されています。) 青い着物・簾・団扇・蛍といったモティーフから、暑さの残る夏の夜。前身頃の半分は簾越し。蛍を驚かせないよう、そっと見守る女性の優しさ・慎ましさが伝わってきます。蛍の猫写が見事ですよ。仄かに光る加減が絶妙。丹念に描かれた簾も見どころかと思います。

資料1〜3  上村松園から山崎種二宛書簡(昭和17年4月10日付)、上村松園・松篁(松園筆)から山崎種二宛書簡(昭和18年10月15日付)、上村松園から桜井猶司宛書簡(昭和20年10月22日付)

右側のガラスケース内に展示されています。松園さんの書簡は初見です。惚れ惚れするほど達筆!!

No.3 上村松園 1913(大正2)年 絹本・彩色  山種美術館

夏の夜、女性が蚊帳を吊っている時、蛍の存在に気付いて視線を向けた瞬間を描く。松園は江戸時代の風俗画を熱心に学んでおり、本作品には喜多川歌麿の浮世絵などを参考にした可能性が指摘される。(以下、割愛)

上村松園《蛍》 1913(大正2)年 絹本・彩色 山種美術館

本作左下に喜多川歌麿作品《絵本四季花 雷雨と蚊帳の女》1801(寛政13)年の写真が掲示されています。松園38歳時の作品。第7回文展出品作。(画像では判別できませんが、)蚊帳の輪っかに紐を通している場面です。No.6《新蛍》とシチュエーションが似ていますが、寝間であることから日常の一端が窺えます。黒目がちな顔立ちはあどけなく感じられますが、白い腕・素足に、そこはかとない色気があります。

No.11 上村松園 春芳しゅんぽう 1940(昭和15)年 絹本・彩色 山種美術館

髪を元禄勝山に結い、綿帽子をかぶった女性が梅の前でたたずむ。楚々とした女性と芳しい梅の取り合わせからは、清らかで気高い雰囲気が漂う(以下、割愛)

上村松園《春芳》1940(昭和15)年 絹本・彩色 山種美術館

松園65歳時の作品。キャプションによると、赤系統の着物白緑色びゃくりょくしょくを基調とした打掛の組み合わせは松園さんの好みだったようです。画像では青みがかって見えますが、実際の色はNo.17《詠哥》の打掛とよく似ています。本作に描かれた女性は、本展で1、2を争う美貌の持ち主かと。口元を覆う袖。(画像では判別できませんが、)ほんのり赤らんだ耳たぶ・頬。もしや、秘かに慕う殿方がいるのでは?

作品脇に『松園作品の表装』と題した解説が掲示されています。図示された表装の名称を興味深く拝見しました。本作(掛け軸)には、華やかな紫色の染めと刺繍の裂一文字風帯に使用されています。

右側奥のガラスケースには、松園が60代で制作した作品6点が並んで展示されています。No.12《春風》は65歳、No.9《春のよそをひ》は61歳頃、No.14《つれづれ》は65歳頃、No.16《つれづれ》は66歳頃、No.17《詠哥》は67歳、No.18《娘》は67歳。No.16《つれづれ》のみ額装で、他の作品は掛け軸に仕立てられています。

No.17 上村松園 詠哥えいか 1942(昭和17)年 絹本・彩色 山種美術館

女性が短冊を手に和歌を詠む姿を描いている。(中略) 女性の髪型は、つと(日本髪の後頭部から襟足部分の関西での呼称)を「葵髱あおいづと」と呼ばれる丸みのある形にしており、公家の女性と推測される。松園は写生や古画の学習を通じて、女性の髪型や着物を含めた風俗の研究を熱心に行った。(以下、割愛)

上村松園《詠哥》1942(昭和17)年 絹本・彩色 山種美術館

松園67歳時の作品。本作も赤系統の着物白緑色を基調とした打掛の組み合わせですね。松園作品の主流ではない、この公家の女性の髪型は、女性を一層上品に演出しています。

No.10 上村松園 きぬた 1938(昭和13)年 絹本・彩色 山種美術館

40代以降、松園は能を題材にした作品を得意とした。本作品は世阿弥作の「砧」に取材する。描いたのは、夫の帰りを待ちわびる妻が、中国の故事で、砧の音が遠方の夫に届いたという話があるのを思い出し、砧を打つ場面。(以下、割愛)

上村松園《砧》1938(昭和13)年 絹本・彩色 山種美術館

松園63歳時の作品。大作でもあり、珍しい画題でもあり、来館者の関心を集めていました。女性の視線が向かう空間を広めにとっている加減が良いと思います。背景を一面、同色に塗り、大胆にデフォルメしています。鑑賞者の意識が自ずと女性の内面へ向かうよう誘導しているのでしょうか。

ネット検索したら『砧』についての解説を見つけたので、リンクを貼っておきます⇓

砧(きぬた)〜秋のものがなしさ〜 | 一般社団法人 和のたしな美塾
秋の風情を感じさせるもの、どんなものが思い浮かびますか。 かつて女性の夜なべ仕事であった「砧(きぬた)」。 その音が秋の夜のあわれさを誘うということで、昔から詩歌などによく詠まれてきました。 砧は、アイロンがない時代に、洗濯した布を生乾きの...

No.20 上村松園 牡丹雪ぼたんゆき 1944(昭和19)年 絹本・彩色 山種美術館

(前略) 人物を左下に寄せ、上部を大きく空けることで、空の広がりや冬の日の寂しさまでも感じさせる。はらはらと舞う雪は、胡粉を筆先で軽くのせたような筆致で描かれ、牡丹雪の質感が表現されている。(以下、割愛)

上村松園《牡丹雪》(部分) 1944(昭和19)年 絹本・彩色 山種美術館

松園69歳時の作品。本作のポストカードは2種類あり、私は「部分」を購入しました。「全体」を購入すれば、大胆な構図を画像でご覧いただくことができましたね。人物の描写といい、雪の描写といい、小品ながら傑作だと思います。この雪を拝見していたら、東山魁夷《年暮る》を連想しました。

No.22 上村松園 杜鵑ほととぎすを聴く 1948(昭和23)年 絹本・彩色 山種美術館

上村松園《杜鵑を聴く》1948(昭和23)年 絹本・彩色 山種美術館
上村松園《杜鵑を聴く》部分

唯一、撮影を許可されていた作品。松園の描く典型的な美人画ですよね。

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感想(4件)

第2章 美人画の時代

(前略) 京都では松園の後に続くように、円山・四条派の流れをくむ菊池契月、伊藤小坡など、さまざまな画家が美人画を手がけました。また、名声の上がった松園のもとには、弟子入りを希望する女性たちが集まりました。中でも九条武子は、西本願寺第21代門主の息女、男爵・九条良政の妻で、歌人・教育者でもあり、「大正三美人」の一人としても知られ、時には松園作品のモデルにもなりました。(以下、割愛)

キャプションにお名前のある菊池契月、伊藤小坡、九条武子の作品は、当ブログで取り上げておりません。会場でご鑑賞ください。

No.26 北沢映月 ねゝと茶々 1970(昭和45)年 紙本・彩色 個人蔵

再興第55回院展出品作。額装されている大作です。「ねね」「茶々」を一緒に描いた作品は初見でもあり、興味深く拝見しました。縦長の画面手前に茶々、画面奥にねねが正座し、共に正面を見据えています。ねねの背景に用いられた銀箔が特徴的。ねねの左右には大きな桐紋が配され、豊臣家を支えたねねの矜持を象徴しているかのよう。

No.45 伊東深水 吉野太夫よしのたゆう 1966(昭和41)年   紙本・彩色 山種美術館

吉野太夫は江戸初期の京都・島原を代表する名妓めいぎくるわに咲いた桜を見て「ここにさえ さぞな吉野は 花盛り」と詠んだことからその名がある。後に茶人として名高い豪商・灰屋紹益はいやじょうえきの妻となった。

伊東深水《吉野太夫》1966(昭和41)年 紙本・彩色 山種美術館

本作品では、髪を立兵庫たてひょうごに結い、辻が花染めの扇面散らし模様の打掛をまとっている。左に立つ禿かむろ(遊女の身辺の世話をする少女)の持つ盆の上には、大夫と縁の深い茶の湯のモティーフがさりげなく配されている。

若い世代には馴染みがないと思いますが、伊東深水は、女優/朝丘雪路さんのお父様。鏑木清方といい、伊東深水といい、男性画家が女性を描くと、こうも艶っぽく、こうも色っぽくなるのか…と感嘆したことが幾度となくあります。あのタイトルは何だったかしら、と伊東深水をネット検索したら、鏑木清方のお弟子さんだったことを知りました。なるほど師匠譲りだったのですね。本展では、伊東深水の作品5点(何れも山種美術館所蔵)が展示されています。力作揃いですが、1点選ぶとすれば、格調の高さにおいて本作になるでしょうか。雲に用いられた金泥が着物にも施され、息を呑む程あでやかな作品です。

No.27 北沢映月 想 (樋口一葉) 1973(昭和48)年 紙本・彩色 山種美術館

明治の小説家・樋口一葉を描く。一葉は師・半井桃水なからいとうすいを慕っていた。ある雪の日、一葉が桃水の家で小説の話をするうち夜になり、桃水は自分が他へ泊まるから家に泊まるよう勧めたが、一葉はそれを振りきって帰宅したという。映月は一葉の心情に思いをめぐらせ、雪を背景に一葉を描き、それを囲むように『たけくらべ』美登利みどり(右)『にごりえ』のおりき(中央)『十三夜』のおせき(左)を配した。

北沢映月の独特な画風に魅了され、2作品をご紹介しました。本作は、文机の脇に正座する樋口一葉がモティーフ。地味な着物に身を包み、文筆業に勤しむ日常を想像させる姿が描かれています。そこには醜聞を嫌ったであろう潔癖さ・堅実さが表現されています。

No.38 鏑木清方 伽羅きゃら  1936(昭和11)年 絹本・彩色 山種美術館

江戸中期の風俗に取材し、眠りから覚めたかのような人妻を描く。香枕は香を髪に焚きしめるための調度で、香木の伽羅をよく使ったことから伽羅枕とも呼ばれる。枕には梅、着物には花しょうぶ、朝顔とさまざまな季節の花を取り合わせている。(以下、割愛)

鏑木清方《伽羅》1936(昭和11)年 絹本・彩色 山種美術館

鏑木清方の作品も味わい深い。殊に、2019年、東京国立近代美術館で鑑賞した《築地明石町》には心が洗われました。本作は、うたた寝から目覚めた女性が、畳に両手をついて身を起こした場面が描かれています。その何気ない仕草が何とも艶めかしい。

No.52 片岡球子 鳥文斎栄之ちょうぶんさいえいし 1976(昭和51)年 紙本・彩色 山種美術館

No.53 片岡球子 北斎の娘おゑい 1982(昭和57)年 紙本・彩色 山種美術館

(自分の嗜好とは異なるのですが、) 片岡球子の作品にはインパクトがあり、大いなる才能を感じずにはいられません。第1章に時間をかけ過ぎて、第2章を鑑賞する時間がタイトになりました。ガラスケース内の片岡球子さんの写真を拝見。もっと派手な方だと想像していたので、その地味な印象に驚きました。

第3章 女性表現の多彩な広がり

本章はさっと観た程度なので、綴る材料がありません。悪しからず。

日本画は表装と共にあることを改めて実感しました。当ブログに掲載した画像では、真価が今一つ伝わらないと思います。是非、会場でご鑑賞ください。観覧時間の目安は、混み具合にもよりますが、1時間半〜2時間です。《上村松園と麗しき女性たち》会期は7月27日まで。

日本画の専門美術館 山種美術館(Yamatane Museum of Art)
1966年に日本初の日本画専門の美術館として開館。2009年渋谷区広尾に移転。近代・現代日本画を中心に、古画、浮世絵、油彩画、6点の重要文化財を含む約1800点を所蔵し、年5~6回の展覧会にて順次公開しています。創立者・山﨑種二の「美術を通...

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