新宿・SOMPO美術館にて《カナレットとヴェネツィアの輝き》開催中。景観画の巨匠カナレットの足跡を辿る。

展覧会

10月12日から12月28日まで《カナレットとヴェネツィアの輝き》展が開催されています。観覧料は一般1,800円。

ヴェドゥータ(景観画)※1の巨匠カナレット(1697−1768)の全貌を紹介する日本で初めての展覧会です。”(公式サイトより一部引用)

画家「カナレット」の名は初耳でしたが、たまたま拝見した画像に魅了され、開幕した翌週に来館しました。受付を済ませ、エレベーターで5階へ。順路は【5階展示室】→【4階展示室】→【3階展示室】→2階ミュージアムショップ→1階出口。階下への移動(→)は、階段またはエレベーターを利用します。

本展は章立ての構成となっています。【5階展示室】にて第1章・第2章作品、【4階展示室】にて第3章・第4章作品、【3階展示室】にて第5章作品が展示されています。本展は展示作品の多くを撮影することができますが、撮影禁止(作品横に表示あり)も混在しているため注意が必要です。展示順に、印象に残った作品をご紹介しましょう。

第1章 カナレット以前のヴェネツィア

ヤーコポ・デ・バルバリ《ヴェネツィア鳥瞰図(初版の複製)》1962年 ファクシミリ版 新潟県立近代美術館・万代島美術館所蔵

“はるか上空から捉えられた景観は、街中の多くの高い塔上からのスケッチをもとに一つの画面にまとめ上げられ制作されたと考えられるものだ。この鳥瞰図は以降のヴェネツィアの都市イメージを決定づける記念碑的作品となった。”(キャプションより一部引用)

この1点⑨ 《ヴェネツィア鳥瞰図》、3度目の版 | トピックス - 新潟県立近代美術館

15〜16世紀、ヴェネツィアの街を一望する鳥瞰図が既に制作されていたとは。「飛ぶ鳥が眺めるように見てみたい」という壮大な欲求。当時の手法は高い塔上からのスケッチ。俯瞰するには一体どれだけのスケッチを必要としたのか、気の遠くなるような過程…。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ No.8《『カプリッチ』より「二人の兵士と二人の女」》・No.9《『カプリッチ』より「壺に手をのせた女、兵士と奴隷」》・No.10《『カプリッチ』より「ニンフと小さなサテュロス、2頭のヤギ」》1738−1739年 エッチング、紙 静岡県立美術館所蔵

“カプリッチとは、きまぐれ・綺想を意味するが、描かれたのは特定の主題を持たない謎めいた情景だ。”(キャプションより一部引用)

この3点は小品ながら味わい深い。タイトルに明記された兵士、女、奴隷、ヤギ等がどんな役割を持ち、どんなストーリーを展開するのか…。全て鑑賞者の想像にお任せする、ということですよね。構図といい、描線といい、余白といい、完璧に思える連作です。

第2章 カナレットのヴェドゥータ

※1ヴェドゥータ」(景観画)とは

“都市景観や古代遺跡などの景観を、遠近法理論に基づき正確に描き出した絵画をいう。(中略)グランド・ツアー※2の時代、名所旧跡を正確に描いたヴェドゥータは、旅の記憶を自国に持ち帰ることを望んだ外国人旅行客に大変な人気を博した。”(パネル解説より一部引用)

※2グランド・ツアー」とは

“18世紀のヨーロッパ、とりわけ英国では、上流階級の子弟が教育の総仕上げとして、数か月から1、2年程度、長ければ5、6年をかけて文化の中心地を巡る大陸周遊旅行、グランド・ツアーが流行した。(中略)訪れる国もフランスやイタリアを中心に数か国にわたり、人気の目的地は文化の先進地であるローマ、ヴェネツィア、フィレンツェなどであった。”(パネル解説より一部引用)

カナレット No.21《サン・マルコ広場》1732−1733年頃 油彩、カンヴァス 東京富士美術館所蔵

カナレット《サン・マルコ広場》1732−1733年頃

“画面左端はサン・マルコ大聖堂で、その奥にパラッツォ・ドゥカーレ(元首公邸)、彼方の対岸にサン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂の丸屋根が見える。(中略)この広々とした眺めを得るために画家は、実際にはありえない位置まで下がった構図を取っている。(中略)腕利きのヴェドゥータ画家達は、建物のプロポーションや細部を、素描等で記録した後、それらの材料を自在に操って、望ましい眺めを描くのである。”(キャプションより一部引用)

カナレット《サン・マルコ広場》部分

本展で推したい作品の一つ青空に浮かぶ雲からして実景に思えます。右上方から降り注ぐ太陽光(らしき線)が、広場を明るく照らし、手前の建物の陰影とのコントラストを際立たせています。広場に集う人々の顔(や手)には、陽光を反射したかのような白点が施され、沢山の光を画面に留めています。建物の描写も完璧。画面左側で顕著な遠近法も見どころかと思います。

カナレット No.23《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》1738−1742年頃 油彩、カンヴァス レスター伯爵およびホウカム・エステート管理委員会所蔵

カナレット《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》  1738−1742年頃

“キリスト昇天祭は、数多いヴェネツィアの祝祭の中でも、「海とヴェネツィアの結婚式」が行われる重要なものであった。”(キャプションより一部引用)

ブチントーロBucintoro船 | イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)
ヴェネツィア偏愛、時には脱線。
カナレット《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》部分

本作は、絵画には珍しい正方形の構図。《サン・マルコ広場》同様、雲の浮かぶ空にそびえる鐘楼が目を引きます。赤色の衣装を纏った4人の漕ぎ手が画面のアクセントになっています。8頭身に描かれた漕ぎ手も散見されますね。金色に装飾された船は昇天祭のシンボルでしょうか。漕ぎ手と思われる数名の人物も金色に染まっています。

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感想(30件)

第3章 カナレットの版画と素描―創造の周辺

カナレット No.35《ドーロ風景》1744年以降に刊行 エッチング、紙 スコットランド国立美術館所蔵

カナレット《ドーロ風景》1744年以降に刊行
カナレット《ドーロ風景》部分

ドーロは、ブレンタ川水系のブレンタ水路の途中にある街。画面右側に建っているのがサン・ロッコ教区聖堂、その前を流れるブレンタ水路を挟んで立つのがヴィラ・ザノン・ボンで、16世紀に建てられ今日も現存する。”(キャプションより一部引用)

画面全体に隙間なく描線が施されています。画面の半分以上が空。右側に尖塔が見えます。小さな街のシンボルでしょうか。道行く人も少なからず描き込まれているのに、うら寂しい光景です。

第4章 同時代の画家たち、継承者たち―カナレットに連なる系譜の展開

ミケーレ・マリエスキ No.42《リアルト橋》1740年頃 油彩、カンヴァス ブリストル市立博物館・美術館所蔵

ミケーレ・マリエスキ《リアルト橋》1740年頃

“カナル・グランデ(大運河)のほぼ中央に架かるリアルト橋。16世紀に大理石で建設された、ヴェネツィアを象徴する最古の橋である。活気に満ちた、この街の商業活動の中心地の日常風景を、マリエスキは華やかな色彩を駆使して描いた。”(キャプションより一部引用)

ミケーレ・マリエスキ《リアルト橋》部分

本展で推したい作品の一つ。ヴェネツィア最古の橋、運河を行き交う舟、漕ぎ手、荷役作業員、岸に佇む貴族。モティーフに事欠かない光景です。運河の水の描写が見事です。明暗に富む空が画面の半分を占める構図といい、堅牢な建造物の描写といい、仮にカナレット作と聞いても違和感を覚えないほど、作風がカナレットに似ています。異なるのは人物描写でしょうか。作業員の動作がよりリアルに感じられます。

ウィリアム・ジェイムズ No.54《スキアヴォーニ河岸、ヴェネツィア》制作年不詳 油彩、カンヴァス 東京富士美術館所蔵

ウィリアム・ジェイムズ《スキアヴォーニ河岸、ヴェネツィア》制作年不詳

“作者は、英国滞在時のカナレットの弟子か助手だったという。(中略)カナレットの落ち着いたタッチとは対照的に、船や建物から人物や波紋にいたるまで明瞭な色彩で描き分けるジェイムズは、「硬質で味気ない」と評された。とは言え本作は、カナレットが18世紀の英国絵画界に及ぼした影響力と、同国におけるヴェドゥータの人気や影響を測る上でも重要な作品である。”(キャプションより一部引用)

ウィリアム・ジェイムズ《スキアヴォーニ河岸、ヴェネツィア》部分

当時「硬質で味気ない」と評されたのですか…。本展で推したい作品として、あえて挙げたいと思います。本作を拝見した刹那、フェルメール作『デルフトの眺望』とイメージが重なりました。構図もモティーフも異なるのですが、本作が纏う全体の雰囲気、岸辺で言葉を交わす人物の佇まいが何となく似ているような…。

ウィリアム・ジェイムズ《スキアヴォーニ河岸、ヴェネツィア》部分

水面に映る建物の描写が美しい。加減が絶妙です。

⇧左下の部分を更に拡大すると⇩

ウィリアム・ジェイムズ《スキアヴォーニ河岸、ヴェネツィア》部分
ウィリアム・ジェイムズ《スキアヴォーニ河岸、ヴェネツィア》部分

重厚感のある船の描写にも魅了されます。帆柱・帆の質感も丁寧に描写されています。

第5章 カナレットの遺産

ウィリアム・エティ No.59《溜息橋》1833−1835年 油彩、カンヴァス ヨーク・ミュージアム・トラスト所蔵

ウィリアム・エティ《溜息橋》1833−1835年

運河を挟んで左に建つパラッツォ・ドゥカーレ(元首公邸)と右の牢獄を上層階で繋いでいるのが溜息橋である。この橋を通って投獄される囚人は、美しいヴェネツィアを見られるのもこれが最後と溜息をついたという。一方、パラッツォ・デッレ・プリジョーニ(牢獄)の一階、水面と同じ高さに開いた戸口から、裸の人物がひっそりと運び出されようとしている。エティはこの牢獄を訪れたとき、ガイドから「処刑された囚人は、真夜中、ゴンドラに乗せられて人知れず遠くのラグーナ(潟)に運ばれていく」という、ぞっとするような噂話を聞き、詩的想像力を膨らませた。”(キャプションより一部引用)

奇異なタイトル、次いで、画面の半分が闇に沈んだ構図に興味をそそられます。キャプションを読むと衝撃的な内容。思わず、殆ど掲載(引用)してしまいましたよ。

クロード・モネ No.68《サルーテ運河》1908年 油彩、カンヴァス ポーラ美術館所蔵

クロード・モネ《サルーテ運河》1908年

“サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の西側を流れるサルーテ運河を、南から北向きに捉えた眺めである。”(キャプションより一部引用)

モネの作品は、先だって国立西洋美術館で鑑賞したばかり。運河をモティーフにした作品は初見です。水の描写は、睡蓮の池と通じるものがありますね。虹の色が全て投影されたような建物の色彩は、はて。

ポール・シニャック No. 66《ヴェニス,サルーテ教会》1908年 油彩、カンヴァス 宮崎県立美術館所蔵

ポール・シニャック《ヴェニス,サルーテ教会》1908年

本作は1908年、パラッツォ・ドゥ・カーレ(元首公邸)に程近い、カーサ・フォンタナに約1ヶ月半滞在した間に描かれた。ブラゴッツォと呼ばれる伝統的な漁船の合間にそびえるサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の堂々たる姿を捉えている。”(キャプションより一部引用)

ポール・シニャック《ヴェニス、サルーテ教会》部分

拝見した途端、作者が判る独特な表現手法です。モネもシニャックも、作品から離れて拝見する方が味わい深いです。大壁面や大邸宅を飾ってきた西洋画は、日本画とは趣が異なりますね。

収蔵品コーナー

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年 油彩、カンヴァス SOMPO美術館所蔵

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年

ゴッホは7点の「壺に生けたひまわり」を描いたが、この作品は、現在ロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵する《ひまわり》をもとに描いたと考えられている。”(キャプションより一部引用)

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》部分

以上、印象に残った作品をご紹介しました。混み具合にもよりますが、観覧時間の目安は2時間前後。《カナレットとヴェネツィアの輝き》展は12月28日まで。

余談① ゴッホ作品に傾倒していた30代を懐かしく思い起こしました。かつて憑き物が落ちたような瞬間があり、あの熱情は過ぎ去ってしまいました。

余談②SOMPO美術館』にリニューアルしてから初めて来館しました。屈強で親切な警備員さんが要所に配置され、セキュリティ面は万全。階段の安全確保等、注意を促す張り紙もあり、随所に配慮が感じられます。ミュージアム・ショップが併設された2階ホールには、テーブル席が18、カウンター席が8設けられ、自由に休憩することができますよ。

余談③ 1階エレベーター脇に『出品リスト』と共に『鑑賞ガイド(小冊子)』も用意されています。拝見。主だった作品の写真と、そのモティーフとなった地点が『←―』で関連付けられています。『←―』の向きは、おおよその視点も示しているそうです。気が利いていますよね。

SOMPO美術館(新宿駅 徒歩5分)|この街には《ひまわり》がある。
SOMPO美術館(旧館名:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)ゴッホ《ひまわり》を収蔵。新宿駅 徒歩5分

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