冒頭の写真は豊原国周《三世市川九蔵の直助権兵衛、三世片岡我童の田宮伊右衛門、五世尾上菊五郎の矢頭与茂七、小仏小平・お岩の霊》部分
【3月24日追記】本展は終了しています。
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秘蔵の浮世絵初公開!と銘打っての開催です。会期は1月25日から3月23日まで。原則的に日時指定予約制です。入館料は一般1,500円。会期中に展示替が予定されています。前期は2月24日まで、後期は2月26日から。

開幕から10日程過ぎた平日に来館しました。受付で『東京駅周辺美術館共通券(4,500円)』※を購入。本展の展示作品は全て撮影できます。章立ての構成に沿って15作品をご紹介しましょう。尚、緑色の文字で表記した箇所は、パネルまたはキャプションの解説から一部を引用しました。
※小冊子。本年は、アーティゾン美術館・三井記念美術館・三菱一号館美術館・東京ステーションギャラリー・静嘉堂@美術館の共催。有効期間は1月〇日〜12月〇日までの約1年間(日にちは各館により異なります)。仮に3月上旬に購入すると、対象となる展覧会数は、アーティゾン4、三井記念5、三菱一号館3、東京ステーション5、静嘉堂4です。各館1回に限り有効。単純計算で恐縮ですが、1展覧会あたり900円になります。

第一章 歌舞伎絵の流れ
(前略)江戸でも芝居興行が始まると、演目や配役を知らせる木版墨摺りの芝居番付が登場します。程なく墨摺りに手彩色が施された「丹絵」や「漆絵」が、次いで紅色、草色を中心に三版で表現した「紅摺絵」の手法で、役者が見得を切った姿などが表現されるようになります。そして明和2年(1765)、「錦絵」(多色摺木版画)が誕生すると、憧れのスターが色鮮やかに表現されるようになったのです。それまで形式的であった役者の容姿は似顔で描かれはじめます。また浮世絵師も鳥居派だけでなく勝川派や歌川派などが台頭し、切磋琢磨します。(中略)本章では、静嘉堂の浮世絵版画一枚もののコレクションによって木版技法の発展の歴史をたどりつつ、役者絵の流れを御覧ください。

前期展示 No.7 芝居狂言浮絵根元 奥村政信 版元:奥村源六 宝暦6年(1756)

「浮絵」という透視図法を用い、芝居小屋内、すなわち花道から舞台、観客席を巧みに表現する。

「浮絵」をネット検索。西洋画の透視遠近法を利用して描いた浮世絵版画とのこと。そんな手法があることを初めて知ったので、ご参考まで取り上げてみました。具体的にどんな手法か分からないまま、⇑舞台の板目に沿わせて定規を当ててみます。五人男の真ん中に立つ男に消失点が重なりますが、後ろの板目は遠近法を逸脱しているような…。
前期展示 No.16 四世 松本幸四郎の東の与四郎、中村仲蔵の浪花の次郎作、松本米三郎の禿たより 鳥居清長 版元:西村屋与八 天明8年(1788)

左は初世中村仲蔵の浪花の次郎作、右は四世松本幸四郎の東の与四郎、駕籠の前には松本米三郎の禿たより。背後の常磐津の太夫たちも、役者と同じ比重で似顔で描かれる。

巧みな構図・淡い彩色に惹かれました。駕籠・(太夫たちの)羽織を芥子色に揃えて色味を抑えることで、柄物を着た主役3人を引き立てていますね。駕籠の黒い縁取り・(太夫たちの)黒い着物が画面を引き締めています。右端の幹が頭上に枝を差し伸べるなど、隅々まで趣向を凝らしています。
第二章 珠玉の錦絵帖
本章では、岩崎彌之助の夫人・早苗が愛玩した錦絵帖より、国貞(三代豊国)、初代豊国、国芳、芳幾、二代国貞、そして国周と、歌川派の役者絵を御覧いただきます。

前期展示 No.36 三世 関三十郎の素太夫妻片もい、五世尾上梅幸の妹 紅ざら、三世 沢村田之助の継子姉 懸ざら、二世 中村福助の正木左近太郎 豊原国周 版元:万屋善太郎 慶應1年(1865)4月

まま子いじめの説話の一つ「紅皿欠皿」を歌舞伎化したもの。美しい娘・欠皿を、まま母とその実子で醜い妹娘がいじめるが、結局欠皿は高貴な人と結婚し幸せになる。

キャプションに美しい娘、醜い妹娘とありますが、顔立ちのよく似た異母姉妹に見えます。欠皿は、継母のしかめっ面を見ても意に介さないようです。欠皿という名の由来に興味が湧きます。
前期展示 No.37 坂東村右衛門 の鷺坂伴内、二世 沢村訥升の早野かん平、十三世 市村羽左衛門のこし元おかる 豊原国周 版元:辻岡屋文助 文久3年(1863)11月

文久3年11月市村座で上演された「仮名手本忠臣蔵 裏門」に取材。お軽勘平もの。城門が閉じられ中に入れない勘平が腹を斬ろうとするとお軽が刀を取り上げて阻止。お軽に横恋慕する鷺坂伴内が二人を追いかけてきた場面である。

ネット検索したところ、早野勘平のモデルは赤穂浪士・萱野三平とのこと。時代劇隆盛期は毎年『忠臣蔵』を放送していたので、忠義と孝行の板挟みとなって自刃した萱野三平の名は記憶しています。
前期展示 No.49 七世 河原崎権之助の千崎弥五郎、五世 尾上菊五郎の早野勘平、大谷紫道の不破数右衛門 豊原国周 版元:伊勢屋利兵衛 明治3年(1870)8月

明治3年8月5日より中村座、市村座合併興行がなされた「仮名手本忠臣蔵」浄瑠璃「踊俄色花園」に取材。図は六段目の終わり、早野勘平が舅を殺して金を奪ったと聞いた弥五郎らは、勘平の元を立ち去ろうとするが、勘平は刀のこじりを捉えて必死に引き留める場面。

早野勘平が舅を殺して金を奪った話には裏があるようです。⇓立命館大学のサイト『五段目、六段目』の記述を一読すると合点しますよ。死体の傷の矛盾はお約束、と理解しました。
前期展示 No.66 五世 尾上菊五郎のゆかんば吉三 豊原国周 版元:具足屋嘉兵衛 明治2年(1869)7月
7月15日より中村座で上演された「吉様参由縁音信」に取材する。縁には菊五郎ゆかりの菊が散り、ゆかんば吉三の背には吉文字菱模様。厚手の奉書紙に美しく摺った手ぬぐいは布目摺。
前期展示 No.67 五世 尾上菊五郎の柴田勝家 豊原国周 版元:具足屋嘉兵衛 明治2年(1869)5月
柴田勝家の睨み、右目は天、左目は地。4月14日中村座で上演された「百音鳥雨夜簑笠」に取材する。縁にはNo.66とは別の菊の意匠、地色は国周らしい鮮やかな赤でこれもNo.66と対照的。(中略)襟や着物の柄は空摺が、顔はきめ出しが施され、豪華で丁寧な揃物である。

ゆかんばが何を意味するのか判らずネット検索しました。AIによると、湯灌場=江戸時代に寺院内に設けられた湯灌を行うための小屋。吉三は湯灌場で働く男、と解釈して良いでしょうか。脱線しますが、髙田郁さん著『出世花』は湯灌の仕事に生き甲斐を見出すお縁が主人公です。
同じ役者を表現したとは思えない程、顔つきが違いますね。柴田勝家を演じる五世尾上菊五郎は、目頭・目尻のラインが強調された上、眉・鷲鼻(の小鼻)が太く表現されています。
前期展示 No.70 当世見立凧つくし 豊原国周 版元:伊勢屋藤吉 慶應1年(1865)11月

凧屋の店先で薄藍の文字凧を持つのは四世市村家橘。子連れの女性は三世沢村田之助。この他店内の凧も役者似顔になっている。



江戸時代、凧を専門に扱う商いが成り立っていたのですね。人物は4人でしょうか。色とりどりの凧が賑やかです。
前期展示 No.71 三世 市川九蔵の直助権兵衛、三世 片岡我童の田宮伊右衛門、五世 尾上菊五郎の矢頭与茂七、小仏小平・お岩の霊 豊原国周 版元:福田熊次郎 明治17年(1884)

明治17年10月市村座の「形見草四谷怪談」隠亡堀の場を描く。釣りをしていた伊右衛門の前に、五世菊五郎が一人二役で演じるお岩と小平の死体を表裏に打ち付けた戸板が流れる。舞台では戸板を裏返すと同時に早替りする「戸板返し」で一人二役を演じるが、本作も戸板の紙をめくることで舞台の仕掛を版画に応用している。

一際、目を引く作品です。戸板を握る人物が三世片岡我童の田宮伊右衛門。お岩と小平の死体を表裏に打ち付けた戸板だなんて恐ろしい。伊右衛門の闇はもっと恐ろしい。⇓リンクを貼っておきますのでご一読下さい。田宮は民谷と表記されています。
前期展示 No.72 五世 尾上菊五郎の提婆の仁三、市川左団次の伊丹屋重兵衛 豊原国周 版元:倉田太助 明治16年(1883)8月
提婆の仁三と伊丹屋重兵衛の月夜の一騎打ち。仁三の手には、重兵衛が盲目の文弥を殺害した際に落とした煙草入れ。殺害現場をみられた証拠をつきつけられ、重兵衛は思わず天を仰ぐ。本図は明治16年(1883)8月、東京新富座「小夜碪宇津谷峠」に取材。

2人の間合いに緊迫感が漂います。月夜にどの程度視界が利いたのか想像できませんが、仁三を正視できない重兵衛の心の乱れが伝わってきます。果たしてこの仇討ちは成就したのでしょうか。
前期展示 No.74 五世 尾上菊五郎の天竺徳兵衛 豊原国周/歌川国梅 版元:松井栄吉 明治16年(1883)10月

天竺徳兵衛は蝦蟇の妖術を自在に操り日本転覆を企てる大悪党。本図は明治16年11月市村座「増補天竺徳兵衛」に取材。(中略)数々の鑓にものともせず、睨みを利かせる徳兵衛ほかは国周が、蝦蟇は歌川国梅(田口年信/1866−1903)が描く。

展示室で拝見した折は背景と見誤り、この巨大な蝦蟇を認識できませんでした(^_^;) 改めて画像を拝見すると、その迫力に圧倒されます。
前期展示 No.33「豊国漫画図絵」三世 岩井粂三郎の弁天小僧菊之介 三代歌川豊国(国貞) 版元:魚屋栄吉 万延1年(1860)9月
前期展示 No.34「豊国漫画図絵」三世 沢村田之助の奴の小万 三代歌川豊国(国貞) 版元:魚屋栄吉 万延1年(1860)9月

「豊国漫画図絵」は自身の名を冠した気合の入った揃物。約2年で29枚刊行。版元は魚屋栄吉、彫師は頭彫の名手・横川彫竹。


版元/魚屋栄吉、彫師/頭彫の名手・横川彫竹、浮世絵師/三代歌川豊国がタッグを組んで大々的に刊行されたのですね。摺師は特定されていなかったのでしょうか。熱心なファンは29枚全て収集したことでしょう。
前期展示 No.27「八犬伝犬の草紙」五世 市川海老蔵(白猿)の角太郎が父 赤岩一角 二代歌川国貞 版元:蔦屋吉蔵 嘉永5年(1852)10月
前期展示 No.28 「八犬伝犬の草紙」三世 嵐吉三郎の犬飼現八信道 二代歌川国貞 版元:蔦屋吉蔵 嘉永5年(1852)9月



「八犬伝犬の草紙」とは⇓サイトを拝読したところ、八犬伝の主要登場人物50人の大首絵とのこと。ご参考まで⇓リンクを貼っておきます。

第三章 明治の写楽・豊原国周
[後編]に譲ります。
第四章 歌川国貞の肉筆画帖
[後編]に譲ります。
以上、第一章・第二章の展示から15作品をご紹介しました。ご紹介した作品の展示は2月24日まで。全て展示替となります。
第一章の通期展示作品はNo.1《歌舞伎図屏風》のみ。第二章の通期展示作品はありません。
後編(第三章・特別出品・第四章の展示作品)も是非御覧ください。
![]() | 価格:1860円 |

