7月上旬に初訪問。重厚な建物の一角がエントランスです。エレベーターで受付のある8階へ。観覧料は一般1,400円。同時開催の企画展《岡本秋暉 百花百鳥に挑んだ江戸の絵師》との共通チケットとなります。私は『ぐるっとパス』を活用しました。展示室は7階。撮影を許可されていた展示作品のうち、幾つかご紹介します。
岩佐又兵衛《弄玉仙図》(重要文化財)
展示室に足を踏み入れ、真っ先に拝見した作品。残念ながら撮影不可でした。巧みな構図、端正な描写力に圧倒されました。
鳥文斎栄之《立ち美人図》
“客からの長い文を読む遊女の立ち姿を描く艷やかな作品です。赤い内着の発色の良さがまず目に入りますが、裾の大柄な紅白の牡丹模様に陰影をつける点など、濃厚な描写が文化期(1804-18)以降の栄之画の特徴に合致しています。”(キャプションより一部引用)
八頭身美人ですね。背が高く描かれていますが、それでも尚、上部の余白がやや気になりました。遊女の仕草・表情から(こんな長ったらしい文、野暮の極みだわ。でも大事な客だし、ざっと読んでおかないとね。)と推し量ってみましたが、遊女の心中はいかに…。
祇園井特《美人図(大首絵)》
“井特は、女性の顔の特徴をとらえて描き分けることを得意とした絵師で、祇園に住んでいました。(中略)美化された美人図ではない、個性を全面に出した独特の存在感のある表現は圧巻です。”(キャプションより一部引用)
美人の定義も時代と共に変遷する、と言いますが、江戸時代は『面長の吊り目』が美人だったのでしょうか。そこへ寄せたにせよ、2作品を鑑賞する限り、なるほど、個々の女性の特徴をより際立たせて描いたように見えます。
一つ目の作品は、色白の手で襟元をかき寄せる仕草。二つ目の作品は、扇子を半分程広げて、指で軽く持つ仕草。色白の小さな手をさりげなく見せるのが当時の流行だったのでしょうか。
《珍禽図》
6曲1隻屏風の全面に40種類以上の鳥が描かれているようです。“舶来をイメージした吊り灯籠、美しく凝ったつくりをした鳥籠や止まり木など、見世物的、異国趣味的なモチーフに溢れています。”(キャプションより一部引用)
画面右側から上下-上下と高倍率で撮影。(上下が判るよう、金色の表装部分を入れました。)
キャプションに記載されている《吊り灯籠》のようですね。目を凝らすと、実物を知らないまま描かれたコミカルな象が認められます。
珍禽の代表格でしょうか。白い鳥の羽の模様が奇妙です。爬虫類のようにも見えます。
真っ逆さまに落ちるように飛来した白い鳥はどこを目指しているのか。
ここに登場する鳥は何れもつがいで描かれているようです。仲睦まじく寄り添っている様が微笑ましいですね。
目の玉が描かれていない鳥が散見され、やや不気味です。どの鳥も好き勝手に振る舞っている印象。
手前に描かれた一際大きな鳥も奇怪です。やけに首が長く、嘴と背景との境界もはっきりしません。キョトンとした表情に可笑しみを感じます。
長澤蘆雪《狗子図》
“長澤蘆雪は円山応挙の高弟。仔犬図においても師の影響を強く受けていますが、より明るく、幾分やんちゃな雰囲気が魅力的です。”(キャプションより一部引用)
7匹の仔犬が仲良く身を寄せ合っています。大きな満月を眺めている黒い仔犬の後ろ姿がとりわけ愛らしく感じられます。
柴田是真《葡萄栗鼠図》
“本図では木の上にいた栗鼠が、食べかけの葡萄もろとも、真っ逆さまに落下する瞬間を捉えたユーモラスな図様が特徴的です。”(キャプションより一部引用)
実際に目撃した光景でしょうか。敏捷な栗鼠とはいえ、結構な高さから落下する体験はおそらく初めて。状況を呑み込めないまま落下していく栗鼠が哀れに思えてきます。渇筆・潤筆を駆使し、葡萄の枝・葉・房を軽妙に描く技量にも魅了されました。
葛飾北斎《雪中鷲図》
“本図との出会いが収集の大きな推進力となった、摘水軒コレクションにとって特別な作品です。”(キャプションより一部引用)
時代を超えて最も優れた日本画家(絵師)を一人挙げるとすれば、葛飾北斎でしょうか。思いがけなく初見の肉筆画を鑑賞することができました。先に長澤蘆雪《狗子図》を鑑賞したせいか、鷲が上目遣いに月を眺めているように見えてくるから不思議です。月明かりに照らされた仄明るい夜を連想しました。
《江戸絵画縦横無尽!摘水軒コレクション名品展》会期は8月25日まで。
価格:6800円 |