10月14日まで《空間と作品》展が開催されています。原則、日時指定予約制です。ウェブで購入するチケット料金は一般1,200円、学生0円。私は当日朝、都合の良い来館時間帯を予約しました。
いざ美術館へ。QRコードを翳して入場します。数多の展示作品の中から、特に印象に残った作品をご紹介します。
このホールを通り抜けると展示室です。何と贅沢な空間でしょう。
円空 《仏像》
高さ70cm程の仏像2体が鎮座しています。うち1体は目・鼻・口が顔の真ん中に集まったユーモラスな顔立ちをしています。笑っているような、見て見ぬふりをしているような…。この世俗的なお顔をした仏様に向かって、当時の人々は日々どういったことを祈っていたのでしょうか。
現在、日本に伝わる円空仏は5,000体以上が数えられていますが、実際にはもっと多かったはずで、江戸時代の記録によれば12万体の仏像を彫ると発願したとも。(キャプションより一部引用)
カミーユ・ピサロ 《四季 冬〜秋》
次の展示室中央にはダイニング・テーブルが据えられ、壁にはピサロの絵4枚(展示順に冬、春、夏、秋)が掛けられています。キャプションによると、当時、ある銀行家(ギュスターヴ・アローザ)が、別荘のダイニングルームに飾る四季図をピサロに依頼したとのこと。そのダイニングルームをイメージした演出のようです。
豊穣を予見させる夏の風景。横長の大画面が、広大な麦畑と果てしない空を効果的に表現しています。中央に描き込まれているのは収穫に携わる家族でしょうか。平和な日常の一コマに心が和みます。
パブロ・ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》
キャプションによると、著名なピアニスト/ウラジーミル・ホロヴィッツ(生没年1903ー1989)がかつての持ち主。
居間にはスタンウェイ社のグランドピアノ2台が置いてあり、カードゲームに興じる客人たちの側で、演奏をすることもあったとか。そして、演奏の合間には、このピカソの絵の下にあるソファに寝そべり、客人たちと楽しく過ごしたようです。(キャプションより一部引用)
縦130cmを超える大作。赤と紫の取り合わせに一瞬怯んでしまいました。顔も首も手も一様に白く、体温が感じられません。黒い輪郭線が青白い肌を一層際立たせています。サルタンバンク=大道芸人とのこと。奇抜な衣装を身につけている事に合点がいきました。彼の胸中に去来するのは虚無感でしょうか。左の瞼に紅を差した意図は何でしょう。よくよく見ると、同じ色が耳・首にも施されています。人を象ったような壁の描線、無造作に引かれた縦線も気になります。背景に重きをおいていないことは判りますが不可解です。
円山応挙《竹に狗子波に鴨図襖》
通路奥の大空間に小上がりが設けられています。ガラス越しではなく、畳に上がって拝見することができます。円山応挙と言えば、2017年に開催された京都国立博物館『国宝』展で《雪松図屏風》の迫力に圧倒された記憶があります。対して、本展の襖絵の主題は、竹の下で戯れる子犬たち。繊細で優しい筆遣いに思わず頬が緩みます。濃淡の墨で描かれた若竹の描写が実に美しい。
次の展示室では、空間に溶け込むように絵画が飾られています。
ロベール・ドローネー 《街の窓》
こちらのコーナーには、額の色に合わせたのか、複数の黒い調度品が置かれています。
佐伯祐三 《テラスの広告》
こちらの壁に掛けられた絵画の作者は佐伯祐三。駆け寄りたいところですが、敷物の上に立ち入ることはできません。
人のいないテラスの背景を飾るのは雑多な広告。広告をモチーフにして茶色・緑色を多用した作品は、昨年、東京ステーションギャラリー『佐伯祐三』展でも鑑賞しました。こなれたタッチにセンスを感じます。
価格:9800円 |
『場』をテーマに掲げた展示室を拝見してから吹き抜け空間へ。美しい建物です。
次の展示室へ向かいます。
海老原喜之助 素描
独特な作風の素描を目にしました。右の女性は拳を握った両腕を前に伸ばし、身をくねらせた左の女性は半ば目を閉じています。モデルの動作・表情には、どんな意味が込められているのでしょうか。黒く塗られた背景が、人物の輪郭を明確にすると同時に、作品に重厚感をもたらしていると思うのですが、ランダムに塗り残した意図も知りたいですね。
前田青邨 《風神雷神》
軽妙なタッチの作品です。風神雷神と言えば、真っ先に思い浮かぶのは俵屋宗達《風神雷神図屏風》ですよね。本作では、上部に風神を、下部に雷神を配していますね。自在にバチを使う雷神の両腕には力がみなぎっています。おどけた表情に味があります。風神の顔を見せずに背を向けることで、雷神との距離感を生み出し、画面に奥行きを与えていると思います。
竹内栖鳳 《鰹図》
竹内栖鳳の動物画と言えば《班猫》が有名ですよね。魚を主題にした作品、私は初見です。魚の立体感・重量感が感じられます。
背びれがリアルです。藍色を主体に、明るい青色、茶色がかった暗い青色も施されています。
以上、印象に残った9作品をご紹介しました。【後編】では8作品について感想を綴っています。よろしければ後編もご覧ください。
《空間と作品》展の会期は10月14日まで。