8月31日より特別展《昭和モダーン モザイクのいろどり》―板谷梅樹の世界―が始まりました。入館料は一般1,200円。
「昭和」モダンのアートシーンを飾ったモザイク作家・板谷梅樹(1907−1963)。かつての日劇のモザイク壁画、瀟洒な飾箱や飾皿、帯留やペンダントヘッドなど、絵画や模様を表出した独特のエキゾチックなモザイク作品は、どれも清新な色彩と可憐な意匠にあふれています。(中略)本展は、梅樹作品を一堂に集めた初の展覧会となります。(公式サイトより一部引用)
開幕初日に訪問しました。週末とあって、開館前に並んだ来館者は30人ほど。人気の高さを窺うことができました。展示作品の撮影は原則不可。ホールに展示されている《三井用水取入所風景》(1954年制作/板谷波山記念館蔵)のみ撮影できます。
展示室(1、2、3)毎に、章立てのテーマに沿って作品が展示されています。その中から特に印象に残った作品をご紹介しましょう。
第Ⅰ章 モザイクの世界で
旧日劇玄関ホールを飾っていたモザイク壁画《音楽、舞踏、戦争、平和》の写真
作品ではなく、板に写真を貼ったもの※。実物は現存していないとのこと。解説によると、古代ギリシャに着想を得た洋画家/川島理一郎氏が下絵を手掛けたそうです。
※ブログをあげた当初『レプリカ』と表現してしまいました。照会したところ『写真を板に貼ったもの』との回答を得ました。申し訳ありません。
No.7《鳥》昭和34年 個人蔵
孔雀をモチーフにしたモザイク画が奥の壁面中央に展示されています。一目で魅了されました。この作品はチラシ(やチケット)に印刷されているので、自分の潜在意識にあったのかもしれません。広げた羽を単純化したデザインがユニークです。派手な色を使わず色数を抑えたことで、陶磁片の形状の面白さがより際立っていると思います。
No.10《花》昭和30年代 個人蔵
この作品も予めチラシで拝見しました。その際、本展で最も現代的な作風だと思いました。昭和30年代に制作されたとは信じ難い。15色以上使用されているのに散漫にならないのは何故か。①黒色の背景が全体を引き締め、②様々な形状の花弁・葉が1本の草木のように表現されて統一感があるから。どうも平凡な理由しか思い付きません。横から見た構図にも関わらず、真正面を向いている花弁に違和感を感じないのは何故か。モザイク画の“意匠性”が潜在意識にあるからでしょうか。ピンクで表現した「U.I」のサインが可愛らしい。
ガラス片・陶片 板谷波山記念館蔵
作品ではありませんが、板谷波山の田端旧宅跡から見つかったガラス片・陶片が展示室中央のガラスケースに展示されています。万華鏡を覗いた時のような感動がありました。
価格:5500円 |
第Ⅱ章 日常にいろどりを
展示作品の中に、昭和10年代に制作された灰皿5点が含まれています。灰皿を目にするのは久々のことで、喫煙者の多かった時代を象徴しているようでした。色鮮やかなバックル・カフスボタン・ネックレス・ペンダントヘッド・ブローチ・帯留といった小物が多数展示されています。思わず手に取りたくなる品々ですが、日常品という範疇でもあり、【展示室1】ほど印象に残った作品はありませんでした。
第Ⅲ章 住友コレクションと板谷家
《彩磁更紗花鳥文花瓶》 大正8年(1919年)泉屋博古館東京所蔵
高さ40cm程の花瓶です。キャプションによると“宝相華の神聖な森に生息する尾長鳥”が描かれています。全体を覆う葉・茎は涼やかな藍色・灰色。花弁と尾長鳥には朱色・茶色が用いられています。花瓶の光沢がこの上なく上品です。
重要文化財 葆光彩磁珍果文花瓶 大正6年(1917年)泉屋博古館東京所蔵
キャプションによると“日本美術協会展で最高賞 金牌 第一席に選ばれた(主旨)”作品。“住友家第15代当主・春翠(雅号)が購入し、麻布別邸の客室・高卓に飾っていた(主旨)”とのこと。高さ50cm程の立派な花瓶です。ガラスケース越しに三方から鑑賞することができます。背面は横から覗きこむ形で拝見しました。正面の図柄は「籠盛りの桃」。時計回りに「対の羊」→「籠盛りの葡萄」→「対の魚」→「籠盛りの枇杷」→「対の鳳凰」が描かれています。キャプションによると“桃・葡萄・枇杷は吉祥を表す”とのこと。これらのモチーフ枠外の図柄は青海波。花瓶の上部・下部には吉祥を表す漢字が配されています。
以上、印象に残った展示作品をご紹介しました。講堂【映像コーナー】では①2022年 NHKエデュケーショナル制作《板谷波山 泉屋博古館東京の名品》②1953年撮影《さらば日劇》が上映されています。講堂への通路脇【展示室4】では《住友コレクションの茶道具》展が同時開催されています。
特別展《昭和モダーン モザイクのいろどり》―板谷梅樹の世界―は9月29日まで。
価格:4050円 |