会期は1月27日から4月12日まで。観覧料は一般2,300円、大学・専門学校生は1,300円です。
開幕2日目。朝一番の来場者が入場し、一区切りついた頃、来館しました。平日ということもあり、比較的空いています。
展示作品は全て「スウェーデン国立美術館」所蔵品。1階・2階展示室は、(一部作品を除き)写真撮影することができます。
章立ての構成に沿って、印象に残った展示作品から20点ご紹介しましょう。尚、茶色の文字で表記した箇所は、展示室内の解説より一部引用しました。
Ⅰ スウェーデン近代絵画の夜明け
(前略) 19世紀半ばのスウェーデンの美術は、フランスやドイツから大きな影響を受けていた。とりわけ風景画においては、崇高な自然の姿をドラマティックに描き出す、ドイツのデュッセルドルフの画家たちの作品が手本とされ、多くのスウェーデンの画家がこの地をめざした。
No.5 マルクス・ラーション 荒れ狂うボーヒュースレーンの海 1857年(年記) 油彩、カンヴァス
(前略) 本作ではスウェーデン南西部の海岸を舞台に、猛威を振るう自然と難破する船が壮大に描かれている。スポットライトのような光の処理が、「見るべき場所」に視線を誘導し、入念に描写された細部が場面に迫真性を与える。
海が荒れ狂う一方、空を覆う厚い雲からは数条の光が降り、青空も垣間見えます。辛うじて沈没を免れている船は、この窮地を脱することができるのか、固唾を呑んで見守る光景です。
No.6 エードヴァッド・バリ 夏の風景 1873年(年記) 油彩、カンヴァス
(前略) スウェーデン中部の湖水地方の白樺の森や湖の岸辺で草を食べる家畜など、平穏で静かな自然の情景を好んで描いた。空気中に拡散する光や、穏やかな大気に包まれた木々の描写に優れ、パリの牧歌的で美しい風景画は「スウェーデン的な風景」の一つのイメージをかたち作った。
岸を彩る白樺の緑が湖面に反映し、何とも美しい。牛飼いの女性が数頭の牛と小路を行く穏やかな日常が描かれています。
Ⅱ パリをめざして ―― フランス近代絵画との出合い
1870年代後半からスウェーデンの多くの若い画家たちは、新しい表現や価値観、それに応じた専門的な指導を求めてフランスのパリへ向かった。(中略) フランスでの自由な雰囲気のなかで新たな感性を身につけたスウェーデンの画家たちは、母国の美術界に根強い保守的な傾向に対して、不満を示すようになっていく。(以下、割愛)
No.14 アンナ・ノードグレーン 車窓の女性 1877年(年記) 油彩、カンヴァス
(前略) 車窓から身を乗り出してハンカチを振る若い女性は、スウェーデン語の「ⅠKLASS」(一等客車)の表示からスウェーデンの汽車に乗っていることがわかる。(以下、割愛)
現代人が想像する車窓とは大いに異なります。上半身がすっぽり納まるサイズの窓枠に、手袋をした指を掛け、握りしめたハンカチを振るブルジョア女性。その横顔からは、新生活への希望・決意が伝わってきます。拝見した刹那、イワン・クラムスコイ《忘れえぬ女》を連想しました。2作品に共通するのは、モデルが「美しい女性」という1点に尽きるのですが…。
No.20 アクセル・ユングステット スイスの石切り場 1886年(年記) 油彩、カンヴァス
(前略) 採石場を描いた本作では、画面中央に二人の子どもの姿が見える。危険な現場にもかかわらず、金髪の少年は裸足である。この時代、とりわけ貧しい家庭環境において、子どもは重要な労働力と見なされていた。
採石場がモティーフになっていることに興味を覚えました。切り立った崖下で作業をする男たちの中には、2人の少年が含まれています。労働の初日なのか、槌を振るう若い男の手元を熱心に見つめている様子。
Ⅲ グレ=シュル=ロワンの芸術家村
(前略) スウェーデン出身の画家たちが拠点としたのは、パリの南東約70キロメートルに位置する小さな村、グレ=シュル=ロワンである。この村には各国から芸術家たちが集い、のちに日本人画家の黒田清輝や浅井忠も滞在した。(中略) グレ=シュル=ロワンは、特別な歴史や名所をもつ土地ではない。画家たちは都会の喧騒から離れ、静かな安らぎを与えてくれるこの村に身を置いて、目の前に広がる農園や画家仲間と過ごすひととき、村人たちの日常を題材に、戸外制作を通じて繊細な光とみずみずしい空気に満ちた作品を描き出した。
No.21 カール・ノードシュトゥルム グレ=シュル=ロワン 1885−1886年(年記) 油彩、カンヴァス
スウェーデン絵画の黄金期を代表する画家ノードシュトゥルムは、この村の素朴な風景に魅了され、戸外制作を通して明るい色彩や光への感受性を身につけた。どこまでもうっそうと茂る草地には、目に映る色をそのまま伝えるかのようにアースカラーの斑点が重ねられる。風景の奥には、近代生活の象徴である蒸気機関車が白い煙をたなびかせている。
『グレ=シュル=ロワン』という語感から、美しい村なのだろうと勝手にイメージしました。パリから70kmも離れると、こんなに野趣に富んだ風景が当時は拡がっていたのですね。
映像コーナー (上映時間 約3分) カール・ラーション『ある住まい』にみる「日常のかがやき」
カール・ラーションとリッラ・ヒットネース カール・ラーションは、1901年にダーラナ地方ののどかな村スンドボーンにある田舎家に移り住んだ。義父から譲り受けたこの家は「リッラ・ヒットネース」という愛称で呼ばれている。玄関には「カール・ラーションとその妻の家へようこそ」という言葉が掲げられ、ラーション夫妻は何度も改装を重ねて、7人の子どもたちとの心地良い暮らしを実現した。(以下、割愛)
カール・ラーションの画集『ある住まい』の原画24点は、紙に描かれたデリケートな水彩画です。(中略) 今回、スウェーデン国立美術館の特別なご協力により、デジタル技術を駆使したコンテンツを制作し、出品作品を含む10点を紹介することとなりました。(以下割愛)
この映像は必見です。原画に描かれた登場人物たちが僅かに動き出し、彼女らの日常生活を垣間見ているような…。威厳のあるおばあさま(カール・ラーションの母親かな?)と話をしながら、出窓(かな?)に座った子供(カール・ラーションの子の1人)が足をブラブラさせる場面が微笑ましい。
Ⅳ 日常のかがやき “スウェーデンらしい”暮らしのなかで
1880年代の終わりになると、フランスで制作をしていた多くのスウェーデンの画家たちは故郷スウェーデンへ帰国した。(中略) 最大の理由は、フランスでの経験を通して、「スウェーデンらしい」新たな芸術を築きたいという願いが芽生えたことにあった。帰国後の画家たちは、身近な題材に目を向けるようになる。家族との暮らしや、制作をともにする気の置けない仲間たちの姿など、日常の中にある光景を親しみやすい表現で描いた。(中略) 彼らが暮らしのなかに見出した「日常のかがやき」は、今日の「スウェーデンらしい」イメージを支える基盤となっている。

No.37 カール・ラーション おもちゃのある部屋の隅 1887年(年記) 水彩、紙
(前略) 床に置かれたおもちゃは、この年に生まれた長男ウルフか、3年前に生まれた長女スサンのものだろう。無造作に見えつつも手入れの行き届いた室内や、夜の窓に映る家庭の情景が、ラーション家に満ちる幸福感をいっそう際立たせている。

テーブル上に置かれた燭台らしきアイテムが窓の下部に映り込んでいますね。窓の上部から、向かいの建物の灯りを視認できます。観音開きの窓にはペンダントライトが映り込み、向かいの建物の灯りも見えます。灯りに温もりが感じられる本作は冬の光景でしょうか。

日中子どもたちを楽しませたおもちゃもお休みの時間帯。壁に映る陰影が不穏なものを暗示しているようでもあり…。
No.33 カール・ラーション キッチン(『ある住まい』より) 1894−1899年 水彩、紙

カール・ラーションの画集『ある住まい』の原画24点のうちの1点。作品保護のため、巡回展の各会場で1点のみ出品されるとのこと。東京都美術館に後日照会したところ、山口会場では《クリスマスと新年の間》、愛知会場では《アトリエ》が出品されるそうです。
No.42 エーヴァ・ボニエル 家政婦のブリッタ=マリーア・バンク(愛称ムッサ) 1890年 油彩、カンヴァス
ボニエルは、芸術家の支援や芸術の後援活動を行い、当時のスウェーデンの美術界で最も影響力のあった女性である。画家としては、落ち着いた色彩で写実的な肖像画や室内画を描いた。本作のモデルはボニエル家の家政婦ムッサ。(以下、割愛)

休憩時間に拡げているのは新聞でしょうか。堂々たる態度、武骨な両手から、ボニエル家の管理を長年任されてきたことが窺えます。服装を変えれば『家庭教師』でも通りそうな雰囲気ではありませんか。

No.49 オスカル・ビュルク エウシェーン王子 1895年 油彩、カンヴァス
ビュルクはスウェーデンへの帰国後、王族や有力市民の肖像を描いて人気を博した。絵のモデルのエウシェーン王子は、国王オスカル2世の末子で、スウェーデン絵画の黄金期を代表する風景画家のひとり。(以下、割愛)

正装してカンヴァスに向かう画家は初見。『王子』という身分も異色ですよね。支度を済ませ、外出するまでの僅かな時間を制作に充てたのでしょうか。大学時代「卒論を書く時は、下宿で背広を着ている」と話していた先輩の言葉がふと脳裏をよぎりました。
No.45 アンデシュ・ソーン 音楽を奏でる家族 1905年(年記) 油彩、カンヴァス

来館者の関心を集めていた一枚。何となく惹かれるものがありますよね。闇の中、灯りに照らされる女性は、この家族の中心人物かしら。
No.44 アンデシュ・ソーン 編物をするダーラナの少女コール=マルギット 1901年(年記) 油彩、カンヴァス
(前略) ソーンはダーラナの伝統文化や人々の暮らしに目を向けた。この地に暮らすコール=マルギットは、ソーンの作品にたびたび登場する。(以下、割愛)

No.45と同じ画家です。どちらを掲載しようか迷ったのですが、決めかねて両方掲載してみました。

顔立ち・服装とも既婚女性に見えますが、モデルは少女なのですね。それこそ隙間時間であっても、編物に没頭しているように見受けられます。
価格:17000円~ |
Ⅴ 現実のかなたへ ― 見えない世界を描く
フランスから帰国したスウェーデンの画家たちのなかには、目の前の事物を客観的に描写することよりも、感情や気分といった内面の世界を表現することに関心を寄せる者もいた。彼らは、現実のかなたにある人間の目に見えない心理や精神のありようを、絵画で探ろうとしたのである。(以下、割愛)
No.51 アウグスト・マルムストゥルム インゲボリの嘆き(エサイアス・テグネール『フリッティオフ物語』より) 1887年頃 油彩、紙(カンヴァスに貼り付け)
マルムストゥルムは、北欧の歴史や伝説、神話をテーマとした作品で知られる。『フリッティオフ物語』は、勇士フリッティオフの冒険とインゲボリ姫との恋を描く北欧の伝説の一つ。画家はこの物語のために14点の挿絵を油彩画で制作した。(以下、割愛)

見つめる視線の先は実景か想像か。段に片足をかけた動作に、彼女のもどかしさが感じられて切なくなります。
No.52 アウグスト・マルムストゥルム フリッティオフの帰還 (エサイアス・テグネール『フリッティオフ物語』より) 1880年代 油彩、カンヴァス

荒涼とした土地に颯爽と佇むフリッティオフ。周囲を拝見する限り、タイトルにある『帰還』は凱旋とは程遠いようです。インゲボリ姫との再会は叶ったのでしょうか。
No.53 グスタヴ・アンカルクローナ 太古の時代 1897年(年記) 油彩、カンヴァス
(前略) 薄明かりのなか、船首に竜の頭のような装飾を施した古代のヴァイキング船が穏やかな水面を進む。北欧では、日没後と夜明け前に辺り一面が青い光に包まれる現象が長く続くため、その情景は「北欧的」モティーフとしてしばしば描かれた。

日本画を思わせる繊細な仕上がりに目を見張りました。精緻な描写力、明暗の対比が見どころ。水面の描写が美しい。

画家アウグスト・ストリンドバリ スウェーデンを代表する劇作家、文筆家であるアウグスト・ストリンドバリは、正式な美術教育を受けることなく独学で絵を描き始め、他の画家には見られない独創的な作品を残した。(中略) ストリンドバリが絵画制作に没頭したのは、生涯のうちごく限られた期間であり、それは戯曲制作の不振や家庭内での不和により、精神的に不安定であった時期と重なる。(中略) 制作過程での偶然性や無意識から浮かび上がるイメージを重視したストリンドバリの作品は、のちのシュルレアリスムや抽象表現主義などの萌芽とみなすこともでき、美術史の中で特異な位置を占めている。
No.64 アウグスト・ストリンドバリ ワンダーランド 1894年(年記) 油彩、厚紙
(前略) 本作は当初「日没の海が見える森の中」を描こうとしたが、制作の過程で森は洞窟に、中央部分は彼方へと広がる光の空間へと変容したとされる。(以下、割愛)


本展の代表作ですね。決して派手な色使いではないのに、オーラを感じる絵画です。
Ⅵ 自然とともに ―― 新たなスウェーデン絵画の創造
(前略) 19世紀末、スウェーデンの画家たちは祖国の自然の豊かさ、美しさを再発見し、その表現にふさわしい技法を探求した。そうして生まれた作品は、スウェーデン絵画に独自の特徴を与え、新たな時代のかがやきをもたらした。
No.78 エウシェーン・ヤーンソン 5月の夜 1895年 油彩、カンヴァス
(前略) 本作は、アトリエから望む街の風景を描いたもので、手前の街路と対岸に点々と灯る光は、当時日没後の街を照らしていたガス灯。画家は、この光を街の象徴的なモティーフとして取り入れたのだろう。黄昏時の淡い光は、日照時間が延びていくスウェーデンの春を叙情的に表している。

モネを彷彿させる神秘的な作品。ガス灯の光が良いアクセントとなっていますね。
No.75 グスタヴ・フィエースタード 川辺の冬の夕暮れ 1907年(年記) 油彩、カンヴァス
(前略) 夕暮れの光を受けてほのかに輝く水面の波紋は、ところどころ輪郭線をともなって木目のように広がる。装飾的なパターンに還元された自然のきらめきが、見る者を豊かな詩情の世界へと誘う。

水中で何やらうごめいているような錯覚を覚えます。波紋が見事に表現された本作を前にすると、写真と見紛うほど。
No.81 ニルス・クルーゲル 夜の訪れ 1904年(年記) 油彩、カンヴァス
スウェーデンへの帰国後のクルーゲルは、放牧された馬や牛が草を食み、静かに休息する姿を繰り返し描いた。この作品では、短いストロークで表現された北欧の夏の夜を象徴する青い光が、空の大部分を満たしている。(以下、割愛)

地平線に沈まない太陽が、こんなにも幻想的な空を創り出しているのですね。夏、放牧されている馬(や牛)は、厩舎(・牛舎)で過ごす時間が短くなるのかしら。


No.80 ニルス・クルーゲル ハッランドの春 1894年(年記) 油彩、板
クルーゲルは、ファン・ゴッホの素描から着想を得て、油彩で描いた上にインクで細かな点や短い描線を重ねる、独自の技法を生み出した。(中略) 蛇行した道の先には、広大なハッランドの大地とそこを耕す人々の営みが描かれる。

景観を3区画に分ける演出かと思いました。ハッランドの景観を3種集めた作品なのですね。
No.72 エウシェーン王子 静かな湖面 1901年 油彩、カンヴァス
(前略) この絵が描かれたのは、王子が夏を過ごしたストックホルムの南に位置するティーレスウーである。北欧の夏の黄昏時に見られる、長い時間続く淡く繊細な光が、厚い雲に覆われる地平線を照らし、静けさをたたえた画面に永遠性を与えている。

No.49のモデル/エウシェーン王子が描いた作品。画面の大半を厚い雲が占める構図が印象的。空の彼方を染める光に視線を誘われます。
以上、印象に残った展示作品をご紹介しました。混み具合にもよりますが、所要時間の目安は2時間。《スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき》展は4月12日まで。その後、山口県立美術館〜愛知県美術館へ巡回。

